ときめきが止まらない!——「香りの器 高砂コレクション 展」
「美しい」と「かわいい」に感情が支配された編集部・出口の展覧会レポート!
取材・文:出口夢々
撮影協力:パナソニック汐留美術館
撮影:編集部
2021年1月9日(日)からパナソニック汐留美術館で開催されている「香りの器 高砂コレクション 展」にZIEL編集部・出口が行ってきました。
アジア随一の香料会社である高砂香料工業が長年にわたり収集してきたコレクションのなかから、選りすぐりの品240点が展示されている本展。古代オリエントの香油壺から近代ヨーロッパの生活を華やかに彩った香水瓶、日本の香文化を象徴するような香りの器まで、香りにまつわる作品が並んでいます……などと、落ち着いてはいられません!
目に入る作品すべてが美しさとかわいさを兼ね備えた、まさに奇跡の展覧会!!
出口の心の奥に眠っていた乙女心が爆発。ときめきが止まりませんでした。
本稿では、香りと人々の歴史を追いながら、 “ときめき” をみなさんにおすそ分けします。
「第1章 異国の香り」
会場に入るとまず現れる、エキゾチックな空間。ターコイズブルーとホワイトの壁紙で覆われたイスラームな世界観を感じます。
この部屋には、古代の土器や陶器、石製やガラス製の容器が並んでいます。
部屋に入って早々に目に留まったのが、透明感のある光を放つ香油瓶。「突起装飾香油瓶」と「長頸香油瓶」です。
まさに「ピカピカ」としか表現できない佇まい。表情を崩してはいませんが、心の中で叫びます。
「ピカピカしていて、かわいい!」
これらの作品は、紀元前後ごろに発明された吹きガラス技法によって生産された香油瓶だとか。
丸みを帯びたフォルムにかわいらしさを感じますが、独特な光の放ち方は高貴な印象で、まさに美しいの一言です。親近感を与える一方で、神秘的。身の回りに置いておきたくなるのですが、いつまでたっても私の部屋にはなじまなさそう……。でも、そんな崇高さがよい。そんな作品です。
今でこそ100円ショップでそれなりにお洒落なものが手に入るガラス容器。
ですが、ガラス容器を成型できるようになった紀元前1600年ごろは、かなり希少なもので、王侯貴族だけが使える高級品だったとか。彼らは、芳香植物を油に漬け込んで香りを移した香油をこの瓶に入れ、身体を清めたり、脚を拭いていたそうです。
王侯貴族が暮らす部屋って、絶対、豪華絢爛ですよね。
そんな部屋でいい香りのする香油を美しい瓶から出して使う……。そしていい香りに包まれたままベッドで眠る……。想像しただけでうっとりしてしまいます。
さらに歩を進めると目に入るのが、整然と並んだ携帯用の香水瓶や、陶磁器製の小さな香水瓶です。
かわいい。かわいすぎる……!
瓶のサイズは5cmくらい。このちんまりとした瓶に繊細なタッチで模様や人・動物が描かれています。(そもそも、小さいがゆえに少し目を凝らす必要もあって)私の視線は瓶に釘付けです。
香水の生産が盛んになった17世紀。これらの小さな瓶は、携帯用の香水瓶として使用されていたのだとか。ガラス容器だけでなく、18世紀に登場した白色磁器でも香水瓶がつくられ、人々はこぞってこれらを持ち歩いたそうです。
当時は優美で繊細なロココ趣味が席巻した時代。香水瓶にも、ロココの象徴とも言えるような、鳥や草花、愛を語らう恋人たちの姿が華やかな色合いで描かれています。
ふんわりとしたドレスを着て、いい香りの香水を身体にふってサロンに出かける。素敵なあの人にいい印象を与えるために、ときに羨望と嫉妬うずまく社交界を生き抜く自分を勇気づけるために——。そんな思いを抱きながらこれらの瓶を使っていたのかな。そう思うと、瓶に描かれた鳥の鳴き声が、なんだかやさしくも切なく聞こえてきます。
私はこの小さな瓶を前に、大きな妄想をふくらまさずにはいられません。
……と、みなさんお気づきのように、私は展覧会の会場に入ってからずっと妄想をしています。もう、今観ているものが現実なのか、脳内の出来事なのか、区別がつかなくなってきました。
さすがにそれは言いすぎですが、美しい展示品を目にすると、それらが展示される前——当時の人々に使われていた様子を見てみたいなという思いから、ついつい妄想してしまうのです。
頭のなかがお花畑のまま、次の間へ。
すると、そこにはボヘミアン・ガラスの香水瓶が……!
ここで私のテンションの針が上に大きく振りきれます。
かわいい!
美しい!!
ときめきが止まりません!!!
シンプルでありながら透明感のある深い青色ガラスが放つ「華やかさ」——。
コバルト・ブルーのガラスに描かれた「繊細な植物模様」——。
細かな文様が描かれた乳白色のアラバスターガラスの持つ「やわらかさ」——。
さまざまな「美」が私に襲いかかります。
あまりのときめきに「きゃーー!」と叫び出しそうになるのを、必死に抑えていました。
心の奥で眠っていた乙女心が爆裂です。
さあ、あらためてご覧ください! ボヘミアン・ガラスの香水瓶たちです。
円形で並べられているボヘミアン・ガラスの香水瓶たち。
どこから眺めてもかわいい。美しい。
このあたりで、私は語彙力を失いそうになりつつあります。
脳内が「かわいい」「美しい」という感情で支配されていて、ときめきが止まらないのです。
思い返してみれば、新型コロナウイルスの影響で、家にいる時間が長くなりました。
ですが、私の家は本とパソコンとベッドしかないほど殺風景。そんな空間に慣れていたからか、美しいものがたくさん目に入り、脳が興奮しているようです。アドレナリンが出まくっています。
ときめきが止まらない心を必死になだめながら、さらに移動すると、次に広がっているのがアール・ヌーヴォーとアール・デコの世界です。
1890年ごろから流行した、動植物の有機的な形態を優美な曲線による造形へと洗練させた、アール・ヌーヴォー様式。その影響はあらゆる芸術分野におよび、ガラス工芸においてはエミール・ガレやドーム兄弟の作品が他の作品と一線を画したそうです。
エミール・ガレは、日本の工芸品や美術品から多くのインスピレーションを得て活躍したそうです。確かに、どこかノスタルジーを感じさせるような、日本らしさがあります。
次に並んでいるのは、シンプルで、どこか力強さを感じさせるような作品。これらが、アール・ヌーヴォーの後に流行した、アール・デコの作品です。これまで見てきた作品とは異なり、シックな印象を受けます。
そして、アール・ヌーヴォーとアール・デコを語るにあたり外せないのが、フランス人のルネ・ラリックです。
香水と香水瓶において多大な功績を残したラリック。「ラリックの香水瓶ならば、どの香水も売れる」と言われるほどの人気を誇ったとか。彼のつくった香水瓶はどれも評判で、メーカーからの注文が殺到したそうです。
ちなみにラリック、なかなかの二枚目です。
あらためてラリックの作品を見ると、確かにこれは売れそう。草花や女神、裸婦など、優美でうっとりとするようなモチーフが描かれているものが多いですね。淡い色合いなのに、大人びた印象もあります。
「この香水瓶に入った香水をまとえば、私もラリックの描く世界観を生きるような人になれるかもしれない……!」そんな妄想を脳内で繰り広げながら、作品一つひとつを堪能しました。
可憐さや美しさ、華やかさ、やわらかさなど、さまざまな要素が織りなす「かわいい」空間で、私のときめきは止まることを知りません。
「第2章 日本の香り」
乙女心を取り戻し、すっかり童心に帰った私を次に待ち受けていたのは、これまでとは打って変わって「和」の世界です。
心なしか、背筋がスーッとのびます。
仏教の伝来とともに日本へもたらされた薫香の風習。『源氏物語』にも薫香に関して記述されていることから、香を焚く文化は貴族を中心に根づいていたとわかります。香道具には漆芸装飾がなされ、豪華絢爛な作品が多くつくられたのでした。
華やかで色合いの美しい異国の香りの器とは異なり、しっとりとした美しさを感じられる日本の香道具。先ほどまでときめきに溺れていた私ですが、ここで一変、寺院を前にしたときのような安らいだ気持ちで作品を鑑賞していました。やはり、日本の文化は見るだけで落ち着きます。
さきほどまで、(脳内で)ドレスを身にまとっていた私の装いは、すっかり着物姿です。
安らぎに満たされたなか、日本の香道具を眺めていたら……
もう展覧会の出口だ~~。私の眼前には現実をつきつける強めの日差しが……。
「どの作品も可愛かったな」
「なんだか気持ちが若返った気がする」
「これからは本当にときめいたものだけを買って、ときめく空間で暮らしたいな」
うっとりした気分で帰路に着いたのでした。
高砂香料工業さんのコレクション、さすがアジア屈指の香料会社だけあります。
このうえないときめきを感じられる「香りの器 高砂コレクション 展」は、パナソニック汐留美術館にて、2021年3月21日(日)まで開催されています! みなさんもぜひ足を運んで、うっとりした気分に浸ってみてはいかがでしょうか? 展覧会を訪れたら、感想をコメント欄に寄せていただけるとうれしいです。
- 展覧会情報
- 「香りの器 高砂コレクション 展」
会場:パナソニック汐留美術館
会期:2021年1月9日(土)~3月21日(日)
観覧料:1000円(65歳以上900円)
開館時間:10:00~18:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:水曜日
最寄り駅:新橋駅
HP: https://panasonic.co.jp/ls/museum/exhibition/21/210109/index.html
- 2021年1月9日(日)からパナソニック汐留美術館で開催されている「香りの器 高砂コレクション 展」にZIEL編集部・出口が行ってきました。 アジア随一の香料会社である高砂香料工業が長年にわたり収集してきたコレクションのなかから、選りすぐりの品240点が展示されている本展。古代オリエントの香油壺から近代ヨーロッパの生活を華やかに彩った香水瓶、日本の香文化を象徴するような香りの器まで、香りにまつわる作品が並んでいます……などと、落ち着いてはいられません! 目に入る作品すべてが美しさとかわいさを兼ね備えた、まさに奇跡の展覧会!! 出口の心の奥に眠っていた乙女心が爆発。ときめきが止まりませんでした。 本稿では、香りと人々の歴史を追いながら、 “ときめき” をみなさんにおすそ分けします。
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