現代を生きる志野——「鈴木藏の志野 造化にしたがひて、四時を友とす」
現代における志野のあり方を模索し続ける
取材・文:出口夢々
撮影協力:菊池寛実記念 智美術館
撮影:編集部
2020年12月12日(土)から菊池寛実記念 智美術館で開催されている、「鈴木藏の志野 造化にしたがひて、四時を友とす」にZIEL編集部・出口が行ってきました。鈴木藏は、志野の重要無形文化財保持者であり、現代志野を代表する陶芸家です。志野の歴史や文芸への造詣を深めながら、現代における志野のあり方を模索し続ける鈴木藏の作品の魅力を紹介します。
鮮やかな緋色に注目
桃山時代に花開いた志野焼。それ以前の時代につくられたやきものは、中国製の青磁や染付皿、美濃窯の天目など、灰釉と鉄釉が主役で、その内容と色彩は決して豊富とは言えないものだった。そこに登場したのが、志野焼だ。
志野焼は日本で最初につくられた「白い」陶器として人々を魅了した。その白さの秘密は、白釉にある。やきものは、粘土で形成され、釉薬をかけた後に窯で焼かれることでつくられる。釉薬をかけると、やきものの表面をガラス質の皮膜で覆われるため、水を通さず、なめらかで衛生的に仕上げられるのだ。通常、釉薬は珪石や長石、灰の3種類をブレンドした基礎釉が用いられ、そこにさまざまな着色材料を加えつくられるのだが、志野焼は長石だけを釉薬として使用する。そのため、やわらかさのある乳白色の焼き上がりになるのだ。
乳白色の陶器に映える「火色(緋色)」も志野焼の特徴だ。火色は、粘土や釉薬に含まれる微量の鉄分が作用して現れるもの。鉄絵具と呼ばれる酸化鉄を含んだ絵具で下絵がつけられると、さらに鮮やかな色合いを表現できる。
桃山時代の制作方法に倣い、薪を燃料とする穴窯で焼くことが最上とされてきた志野。しかし、鈴木は1960年代から普及し始めたガス窯を先駆的に用いている。というのも、温度調整が可能なガス窯を使用することで、焼成をコントロールでき、結果として灰色や淡紅色、緋色などの色調のバリエーションをつけやすくなるからだ。ガスを用いながらも作品の味わいを引き出せるよう、ガス窯は工夫と改良が重ねられ、現在は4代目の窯を使用している。
鈴木の作品にある鮮やかな緋色は、全体に鉄泥の化粧を施し、焼成と熱と徐冷の調整により発色させることで生まれるもの。桃山の志野や現代のほかの作家とは異なる、鈴木の志野ならではの色合いだ。
鈴木が提示する現代的な志野焼のあり方
本展では、2020年まで数年間をかけて制作、つくり溜めたなかから、形や釉調、焼けなどといった茶の湯の器としての見所を踏まえて選ばれた茶碗が展示されている。また、茶碗以外の作品——水指や花生、香炉、陶塑は2020年につくられた最新作だ。
「志野陶塑」は、土を重ね全体の姿を盛り上げた後、横に裁断してなかをくり抜き、再度接合するという塑像のような成形方法でつくられる。構造的な強さには、作家の指向がより顕著になっている。
燃え盛る炎のように立ち上る火屋と三つ足の本体を組み合わせた独特な姿の香炉は、近年、鈴木が一貫して試みているかたちだ。日本のやきものが本質的に備えていると作家が考える「縄文的な表現」も伺える作品である。
松尾芭蕉の『笈の小文』より言葉が取られた本展の副題は、現代に生きるつくり⼿として創意を尽くしながら、その先に⽣まれる不易のかたちを⽬指す、という作家の姿勢を示している。茶の湯を媒介にした先⼈たちの⽂化的営みの歴史や、⽇本⽂化の底流につながるものとして志野焼に向き合い続ける鈴木の「姿勢」に注目してみてほしい。
一見、ゴツゴツした、硬い印象を受けますが、眺めているうちに作品の内奥にある「なめらかさ」や「やわらかさ」を感じました。思わず「この茶碗にコーヒーを入れて、ゆっくりとした時間を過ごしたいなあ」と夢想してしまうほど……!
ぜひみなさんも展覧会に足を運んでみてください。展覧会の感想や記事の感想をお待ちしています!
- 展覧会情報
- 鈴木藏の志野 造化にしたがひて、四時を友とす
会場:菊池寛実記念 智美術館
会期:2020年12月12日(土)~2021年3月21日(日)
観覧料:1100円
開館時間:11:00~18:00
休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)
最寄り駅:神谷町駅、六本木一丁目駅、溜池山王駅、虎ノ門駅
HP: https://www.musee-tomo.or.jp/exhibition/
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