個性的な自伝になる! 構成の立て方
作家のようにスラスラ書けるようになるプロットづくり
文:金丸信丈
自伝を書こうとする際に、まず取り組みたいのが構成を立てること。まるでプロの作家が書いたような本にするための、構成の立て方やコツをお話します。
おもしろい構成ができれば、書くのも苦になりません!
1行目から筆が進まないあなたへ
いざ自伝を書きたいと思って筆を執っても、1行目を書こうとして早速筆が止まる……。
よくあることです。
無理やり1行目をひねり出しても、2行目で止まる。いつまで経っても進まない。
「ああ、やはり私には無理なのかな……」などと考えるのは早計です。
そもそも、プロの作家、ライターもそんな書き方はしていません。ゴールが決まっていないマラソンを「さあ、走れ」と言われても、なかなか一歩目を踏み出せませんよね。散歩であっても、ある程度の目的が必要だと思います。
私たちは、日ごろ書籍の編集を行っているわけですが、書き手の方(著者)と打ち合わせして、まず行ってもらうのは構成づくりです。
本づくりの最初の打ち合わせの最後の一言は、「では、構成案をお待ちしています」となるわけです。
では、この本づくりの最初の打ち合わせ、何を話し合っているのかというと、「なぜ、この本をつくるのか」「誰のためにつくるのか」「何を伝えるのか」といった本の土台、根柢の部分についてです。
ここでは構成の立て方をお話しますが、その前に「なぜ、この本をつくるのか」を今一度、考えてみてください。
この点については、詳細を本連載の第1弾「『自伝』の書き方」でお話しています。
まだ、ご覧になっていない方は、先にそちらを読んでいただけるとわかりやすいと思います。
といっても、せっかくこの記事を読み始めていただいた方に、途中で切り上げるようにお願いするのも気が引けます……。
第1弾の記事について、結論をお話しておきましょう。
まず考えるべきことは何か。
誰のために、何を目的に書くのか
さきほどお話した、本づくりの最初の打ち合わせと同じです。まず、この点を明確にしましょう。はじめて本を書く人であっても、何度も本を書いている人であっても、同じです。
少々拍子抜けされた方もいらっしゃるかもしれません。そして、一見の当たり前のように聞こえるかも知れません。
「自分のために、自分の人生を振り返るために書くのだ」
そのように言う人もいるでしょう。
でも、それだけでは不十分です。
少々意地悪な言い方となってしまいますが、自分の人生、自分がいちばんよく知っているはず。自分が知っていることを、自分のためにまとめるというのも、動機としては少々不自然です。
自分のために——いや、そうではないでしょう。
たとえば……。
「これまで死にもの狂いで生きてきた自分のために、自分を十分に褒めて、そして自らの人生を噛みしめるために書くのだ」と。漠然と「自分のために」とだけ思っている人は、実は少ないのではないのでしょうか。
そもそも、自分のためではない人もいるでしょう。
「これまで長く人生をともにした配偶者に感謝を伝え、束の間でもいい、幸せを感じてほしいがために書くのだ」と。
いずれにせよ最低限、このくらいの具体性はほしいところです。
それが設定できれば、構成をつくるのは簡単です。
ここからは前者の目的を例として、構成を考えていきます。
「これまで死にもの狂いで生きてきた自分のために、自分を十分に褒めて、そして自らの人生を噛みしめるために書くのだ」
対象読者は「あなた」です。自分自身ですね。
本は対象読者のためにつくられます。「あなた」が対象読者なのですから、とことん「あなたのため」に書きましょう。
死にもの狂いで生きてきたことを褒めたいわけですから、まず死にもの狂いであった事柄を抜き出します。
・40年勤め上げた仕事
・仕事と子育ての日々
2つを挙げたとします。が、再び意地悪な言い方となりますが、子育てと言っても、子が成人してからは負担も減ったかもしれませんし、子どもが生まれるまでは仕事に没頭できていたかもしれません。
もっとも象徴的に「死のもの狂いであった日」を思い出しましょう。
「死のもの狂い」——これが本書のカギです。
人生において象徴的な日を第1章に
たとえば、娘、息子が生まれ、1歳になろうかとした日。仕事に復帰しようと保育園を探し始めた日。かつては、今ほど共働きに理解がありませんでした。むしろ、女性は家にいてしかるべきという考え方が主流でした。
「まだ小さなわが子を保育園に預けるの……?」などと、たしなめるような言い方をされた方もいるでしょう。
それが第1章です。
仕事をしたい。そう思っているなかで、そんなセリフを耳にしたのであれば、そのときこそ「死にもの狂い」で生きることを強いられた瞬間だと、私は思います。
いくら例とは言え、私などが軽はずみに言えることではありませんが、そうしたセリフや出来事がいくつかあると思います。
構成づくりの視点で言えば、まずその「象徴的な日」から本を書き始めたいところ。必ずしも、幼少期から書かなければならないわけではありません。
第1章は、そのセリフ、その出来事に関わることだけについて書けば十分でしょう。
では、構成づくりの続きです。
「死にもの狂い」の状況も、日が経つにつれ変化していきます。
状況が好転した日。もしくは、状況がさらに深刻さを増した日。これも、何かきっかけがあるでしょう。
本の構成は直列と並列がある
……と、第2章に展開していく前に、構成の基本について、少しお話します。
本の構成は、ほぼすべてが2つに大別されます。
直列か、並列か。
小説はおおよそ直列ですが、エッセイなどは並列であることが多いですし、ビジネス書や趣味に関連した本は半々の割合で直列であったり、並列であったりします。
直列は、時系列なり考え方なりがひとつのベクトルをもって進んでいく。
並列は、ある事象、考え方、情報を並列に並べていく。
おおざっぱに言うと、そんな感じです。
自伝は、ある程度時系列に話が進みますので、直列が自然でしょう。
では、第2章に戻ります。
状況が変わったのであれば、そのきっかけが第2章です。
おそらく、すぐに状況が好転するようであれば、自らの人生を「死のもの狂いで生きてきた」とは言わないでしょう。いよいよ本題に入りますから、第2章はきっかけを含め、その日から続いた厳しい日を少々長めに回顧してもよいと思います。
第3章は、そうした日々に束の間安らぎを得たものなどについて書いてみてもいいかもしれません。起承転結の「転」です。
苦しい日々を生き抜くことができた何かがあったはずです。その存在が「死のもの狂い」で生きてこれた理由でもあるでしょう。
第4章は、長き人生を「死にもの狂い」と感じさせた決定的な出来事について書いてみましょう。私もまだまだ若輩者でありながら、一応46歳まで生きてきました。20代、30代で死のもの狂いで生きた日が終われば、「まあ、あのときは若かったからね」くらいですませられそうな気がします。
一応、社長をさせていただいているので、毎日資金繰りに追われる日々です。事業資金の融資を受けた、などと言えば聞こえもいいですが、要するに借金です。
マンションのローンも大して終わっていないのに、銀行が金を貸してくれると言うから会社の連帯保証人(原則、小規模の会社は代表取締役が連帯保証人となります)として、さらに借金が増えた……。はあ、しんど……。
などと愚痴ってみたものの、将来性のない会社には金を貸してくれませんから、そこはポジティブに生きたいと思います!
などと余談が長くなりましたが、要するに、人生は往々にして思うほど順調には行かないものですよね。
私はまだ見ぬ景色ですが、山場が訪れ、そして、その山場を乗り越えるときがくると思います。小説で言えば、クライマックスです。
いよいよ終章。あなたが本を書く目的を果たす章となる
そして、第5章。このあたりで終章としてもよいでしょう。
終章はもちろん、死のもの狂いで生きてきた人生を乗り越えた自分を褒めてあげてください。
この本は、「これまで死にもの狂いで生きてきた自分のために、自分を十分に褒めて、そして自らの人生を噛みしめるために書く」のです。目的をしっかり果たしましょう。
第5章の章タイトルは、「そして、65歳で噛みしめる幸せ」といったものになろうかと思います。
さて、第1章から始まり、4章まで書き終えたあなたは、ある意味でとてもつらい時間を過ごしたことでしょう。
「死にもの狂いの日々」など、振り返って楽しい時間とは言いづらい。それでもここまで書いてきて、いまある幸せを噛みしめているはずです。
日々の暮らしで失ってきたものも多いでしょうが、得てきたこともきっとあるはずです。
最後に「お疲れさま」と自らをねぎらい、そして、これからの人生に対する思いを紡いでください。
構成を立てれば1行目はすんなり書き始められる
漠然と生きてきた日々をまとめようとすると、むずかしいものです。
本を書くペース配分もなかなかうまくいきません。
まずひとつ、人生のカギやキーワードを見つけて、そこから構成を立ててみてください。
今回の例では「死にもの狂い」がキーワードです。
そうして立てた構成をあらためて見ると、最後に「お疲れさま」と書く自分の姿を想像できます。すると、第1章の1行目もすんなりと書き始められるのではないでしょうか。
加えて今回の例で言えば、人生の辛酸を舐めた日の出来事からスタートするわけですから、怒りに任せて書けるので1行目と言わず、2行目、3行目と止まることなく筆が進むと思います。
感情が揺れたまま書くのはむずかしい。書いては消して、消しては書いて、の繰り返しになります。まず、感情のベクトルを定めるのも手です。そのために、「なぜ書くのか」がとても重要になります。
完成後、最初の読者は「あなた」です。
そうして書かれた本は、自らの人生を振り返り、噛みしめるに足るものとなるでしょう。読み終えたのち、あらためて自分を褒めてあげてください。
次の機会に、例を変えて構成のつくり方をお話したいと思います。
そのときは、大切なあの人のために書く本の構成についてお話ししましょう。
自伝の書き方(本の書き方、つくり方)については、下記の記事も参考にしてみてください。
自伝の書き方——長い人生を本にまとめるために、まず行うべきこと
「原稿」を書くときに気をつけたい5つのポイント
構成のつくり方についてご質問があれば、なんなりとお答えします。コメント欄にお書きいただければ、必ず返信いたします。
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