ほかの人に理解されなくても「本」を守るということ——『ブックセラーズ』
本を愛するすべての人へ
文:花塚水結
編集部・花塚が今観たい映画作品を紹介する連載「気になるシーンをコマ送り スクリーンZIEL」。第7回目は、2021年4月23日(金)に公開された『ブックセラーズ』。
本作は、2019年にアメリカで公開されたドキュメンタリー映画です。本の “狩人” であり、本を守る “天使” である「ブックセラーズ」という職業を、紐解いていきます。
ほかの人には理解されにくい職業 “ブックセラー”
「わかってないなー! この子には、こんなに素敵なところがたくさんあるのに。日本のアイドル文化はこんなに素晴らしいのに!」
幼少のころからずっとアイドルが好きだった私は、こう、何度も思ったことがあります。
高校生になり、自分で稼いだお金を得られるようになると、少ないアルバイト代のなかから握手券つきのCDを何枚も買い、交通費を出し、推しメンに会いに行っていました。
たった8分の1ページサイズ、ワンカットでも雑誌に掲載されれば、朝早くからコンビニに行き、まだ陳列される前の雑誌を持ってレジに並びました。
同じクラスのギャルに「あなたの推しメンが一番人気なのは、何か嫌だ」と言われたこともありましたし、一緒に音楽番組を見ていた母親からは「ほかの子のほうがかわいいじゃない」と言われたこともありました。
そうして、心のなかで「わかってないなー!」と何度も思ってきたのです。
映画『ブックセラーズ』に出演していたブックセラーたちも、同じように「わかってないなー!」と叫んでいるのかもしれない、と思いました。
ブックセラーとは、簡単に言うと、古書を仕入れ、それを求める誰かに売ることを生業とする、「本を売る人」のことです。映画に出てくるブックセラーたちは何よりも「本への愛」があふれる人たちばかりでした。
マンモスの標本つきの本、エドガー・アラン・ポー『タマレーン』の初版本、ヒップホップについて記載された本や雑誌、女性作家が描く女性についての本——「Kindle」さえあれば最新の本が手間なく読めてしまう現代を生きる私たちには、理解できない古くてマニアックな本ばかりをブックセラーたちは購入し、本棚に並べていきます。
そんな、私たちが「理解できない本」の売買を繰り広げるのがNYブックフェア。そこに世界中から集結するブックセラーたちに焦点をあて、密着した作品です。彼らが「ブックセラー」という仕事について語る場面を中心に、秘蔵コレクションや、普段の仕事ぶりが映されています。
何百年もの前の本を手にして喜んだり、何万冊もの本が並んだ本棚の前にたたずむ彼らはきっと、「わかってないなー! この本には、こんなに素敵なところがたくさんあるのに。紙の本はこんなに素晴らしいのに!」と感じていたことでしょう。
何百年も前から人々は自分の知識や思想、幻想を本に記してきました。本とは、いわば歴史の証人のようなものです。ブックセラーたちが「本を仕入れて売っている」ように見えていた行為は、「歴史を守り、次世代へつなげる」行為だと思いました。
この映画を観た後は、「古本屋さんに入って、気になる1冊を手に取ってみよう」そんな思いになりました。
- ブックセラーズ
- 日本公開日:4月23日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
原題:THE BOOKSELLERS|アメリカ映画 | 2019年 | 99分
監督:D.W.ヤング
製作総指揮&ナレーション:パーカー・ポージー
字幕翻訳:齋藤敦子
配給・宣伝:ムヴィオラ、ミモザフィルムズ
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