「家族」を証明するのは「血縁」なのか——『いつか家族に』(ハ・ジョンウ主演)
戦後の韓国で起こった、ある家族の分裂の危機
文:花塚水結
編集部・花塚が今観たい映画作品を紹介する連載「気になるシーンをコマ送り スクリーンZIEL」。第5回目は、2018年に公開された『いつか家族に』。中国の作家・余華によるベストセラー『血を売る男』(河出書房新社)を映画化したヒューマンストーリーです。
韓国の俳優であるハ・ジョンウが自ら監督と主演を務め、物語の舞台を中国から韓国に移して、ある問題が巻き起こった家族を描きました。
2021年2月2日(月)よりNetflixで配信が開始となったので、さっそく花塚が鑑賞しました!
11年間育てた息子が “他人の子” だった
舞台は1953年、朝鮮戦争直後の韓国。
現場仕事で生計を立てているホ・サムグァン(ハ・ジョンウ)は、ある日現場にポップコーンの売り子としてやってきたオンナン(ハ・ジウォン)に一目惚れをします。オンナンには、ハ・ソヨン(ミン・ムジェ)というお金持ちの恋人がいましたが、サムグァンは自らの血液を病院に売って結婚資金をつくり、いきなりオンナンにプロポーズ。オンナンの父親も説得し、めでたく2人は結ばれることになりました。
夫婦のあいだには3人の子宝に恵まれ、貧しくも平和で幸せな日々を送っていましたが、ある日、街中で家族にまつわる “ある噂” が広がります。それは、「11歳の長男であるイラルク(ナム・ダルム)が、オンナンの元交際相手であるソヨンにそっくりだ」という噂です。
サムグァンは、イラルクが自分の子どもであることを証明するためにイラルクに血液検査をさせ、街中の人を集めて届いた検査結果を開封します。しかし、その結果はイラルクが自分の子どもではないことを証明するものだったのです。
その後、オンナンもサムグァンと結婚する前に一度だけソヨンに迫られたことを認め、イラルクはオンナンとソヨンの子どもであることが判明します。ショックを受けたサムグァンは、仕事を怠けて売血で生計を立てるようになり、オンナンとイラルクへ嫌がらせをするようになるのです。
それでもイラルクは “育ての親” であるサムグァンを慕い、父親に自分の存在を認めてもらおうとします。
そんなある日、ソヨンが急性脳炎で倒れ、意識不明の状態になってしまいます。当時の医療では脳炎を治すことはむずかしく、医者もお手上げ状態でしたが、ソヨンの妻(チョン・ヘジン)は何とかして夫であるソヨンの命を助けようと、祈祷師へ相談します。すると、祈祷師は「血のつながった息子が祈りを捧げれば命が助かる」と言うのです。それを信じたソヨンの妻は、サムグァンの家を訪ねると「イラルクの大学卒業までの費用を工面する」ことを条件に、イラルクを養子に迎い入れたいと持ち掛けます。
“他人の子” と言えど、11年間育ててきた息子をいきなり養子に出すことに躊躇うサムグァンでしたが、夫婦で「いい環境で教育を受けさせることがイラルクのためになる」と結論づけると、イラルクを養子に出すことを決意します。
祈祷の当日、イラルクはソヨンに向かって「お父さん行かないで 戻ってきて」と大声で祈りを捧げることを強制されます。しかし、その様子をこっそり見にきていたサムグァンを窓の外に見つけると、イラルクはサムグァンに向かって「お父さん行かないで 戻ってきて」と大声で訴えます。サムグァンが出した答えと、その後に待ち受けていた悲劇とは——。
このシーンが必見!
私が気になったのは、売血のシーンです。
結婚資金をつくるために売血をした際、すでに売血をして生活していたパン(ソン・ドンイル)とグルリョン(キム・ソンギュン)に売血の「極意」を教わっていました。
採血前は水をたっぷりと飲めば血液を増やせること、採血前はトイレに行かないこと、医者に食糧(賄賂)を渡せばより多くの血液を売れること——。
「本当に?」と少し笑ってしまいそうなシーンでもありましたが、売血する人で行列になっている病院を見ると、貧しかった時代を生きていた人たちの知恵なのだなと感じました。
しかし、サムグァンが仕事を怠けて売血で生活資金を稼ごうと病院に赴いた際、病院の外では青ざめた顔で座って缶詰を食べているグルリョンを見つけます。売血のしすぎで体調が悪くなってしまったのだろうと察せますが、サムグァンも売血に頼りすぎてグルリョンのようになってしまうのではないか、とヒヤッとするシーンでした。
売血は物語を象徴する行為としてとても印象的なので、ぜひ最後まで観てみてください。
『いつか家族に』(2018年)
監督:ハ・ジョンウ
脚本:余華
出演者:ハ・ジョンウ、ハ・ジウォン、ミン・ムジェ、ナム・ダルムほか
配信しているサイト:Netflix、U−NEXT、TSUTAYA TV、Amazon prime videoなど
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