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ロースイーツ講師・富田あけみの「輝き方」

70歳——人生の転機は “ピンチ” にあり

連載 輝き続ける女性たち 2023.3.02

取材・文:出口夢々

「ピンチをチャンスに変えられたから今があるんです」
25年間の専業主婦としての生活を経て、現在はロースイーツ教室を主催する富田あけみさん。62歳から始めた教室の生徒数は2000人を超え、今はコンサルタント事業も手がけています。そんな富田さんに輝き続ける秘訣を伺いました。

夫の体調不良で暮らしが一変

——富田さんが教えている「ロースイーツ」とはどのようなお菓子なのですか?

富田:ロースイーツの「ロー(Raw)」は、「生」を意味する言葉。食材に含まれる酵素や栄養素は加熱しすぎると分解されてしまうため、素材を「生」のまま、もしくは48℃以下で加熱して使用するスイーツです。だからとっても栄養満点。そして、グルテンフリーで白砂糖不要、乳製品や卵など動物性の食材も使用しないので、アレルギーのある方でも食べられるお菓子なんですよ。

簡単につくれるのもうれしいポイント。食材をブレンダーにかけて形成し、冷蔵庫で冷やし固めたら完成するので誰でも失敗せずにつくれるのです。実際、私はオーブンでスポンジケーキを焼いてもうまく膨らませることができずに、ホットケーキのような仕上がりになってしまうほどお菓子づくりが苦手でした(笑)。でも、ロースイーツづくりにはオーブンを使用しないので、お菓子づくりに苦手意識を持っている方でも絶対に成功するんです。

——身体にいいお菓子がとっても簡単にできるだなんて、思わずつくってみたくなります。

富田:そうでしょう。甘いものを罪悪感なく食べられますし、ビタミンやミネラルも豊富なので健康にも美容にもいい。ご家族の健康を守りたい方にもおすすめなんです。

というのも、私がロースイーツに出合ったのは、夫の体調不良がきっかけでした。風邪をこじらせた夫が、41.7℃の高熱を出したんです。慌てて病院に駆け込んだところ、病院の先生が「とにかく免疫力が下がっているから、積極的に酵素を摂るようにしてください」とおっしゃって。そのときは「酵素?  酵素って洗剤に含まれている成分だよね?」と思いながらも帰宅しました。

その後いろいろと調べてみると、酵素は野菜や果物、お肉、発酵食品に含まれていて、生き物が生きていくうえで必要な消化・吸収・代謝などの化学反応を促進するものだと知りました。ロースイーツを知ったのもこのときです。

当時の私は十数年にわたる実母と義母の介護を終えて、心にぽっかりと穴が空いた状態でもありました。なので「何か多くの人の役に立つことをしたい」と強く思いながらも、同時に「自分は何をしたいかわからない」と悩んでいたんです。2人の子どもを育てながら母と義母の介護をする生活のなかに自分の時間などありませんでしたから、いざ自由に動けるようになったときに道標のようなものを失っていたわけです。

そんな自分の不安定な状況と夫の体調不良のタイミングが重なったので、正直、「どうして自分ばっかりこんな思いをしなければならないのだろう」とつらい気持ちでいっぱいでした。でも何か始めなければ変わらない——。そう思った私は、ロースイーツの教室に通い始めました。

——ロースイーツを教えてもらう立場から教える立場になったきっかけは、何だったんですか?

富田Facebookにいちごのケーキの写真を投稿したら、1000人以上から「いいね!」がついたんです。「レシピを教えてほしい」という連絡もたくさんきたので、先生に許可をとりレシピを投稿したら、今後は「つくり方を直接教えてほしい。教室はやっていないんですか?」とたくさんの連絡がきて。私はロースイーツを習っていた立場だったので少し戸惑いましたが、先生に相談してみると「教室をやりなさい!」と背中を押してくださりました。私自身も「人の役に立つことをしたい」と思っていたので、連絡をくださった方の気持ちに応えたいと思い教室を始めたんです。

1レッスンあたり5人の生徒さんという小さな規模で始めた教室ですが、始めて8年経った今では、生徒さんの数は2000人を超えています。その後「JKAロースイーツインストラクター」という資格もつくったので、今は教室から資格取得講座、さらに資格を取得した生徒さんが集客できるようにコンサルタントも行っています。62歳からの挑戦で、こんなに生活が変わるなんて自分でも驚きです。

日課は新作レシピの考案

——「ロースイーツ」が暮らしの中心にあるのですね。

富田:ええ。教室がお休みの日は夫と散歩をして、その途中でカフェに立ち寄るのが習慣なのですが、おいしそうなスイーツがあったら必ず注文します。実際に食べてみて、ロースイーツにできそうか考えるんです。ケーキだったら一層ずつ食べて、「これはあの食材で代用できそうだな」「ここを再現するのは少しむずかしいかも」と思案しながら新しいレシピをつくります。なので、出先でもアイデアを書き留められるように、どこに行くにもメモ帳は必ず持ち歩いていますね

散歩をするときに持ち歩いているアイテムたち。右上から時計回りに、メモ帳、マスク、スマホショルダー

散歩をするために足腰が丈夫でなければなりませんから、最近は起床後にストレッチをするようになりました。ベッドに寝っ転がったまま膝を抱えたりと簡単な運動ですが、気になっていた腰痛も改善しています。

そして、私の生活に欠かせないのが「お茶」です。ほっと一息つきたいときに、お気に入りのポットで紅茶を淹れるんです。20代のころはイギリスから茶葉を取り寄せたりもしていましたが、このところはムレスナティーハウスの「メッチャアールグレイ」がお気に入りです。ベルガモットの香りが高くておいしいですよ。

ムレスナティーの茶葉と紅茶

——日中は散歩をしつつ新しいレシピを開発して、家でくつろぐときはお気に入りのお茶を飲む。メリハリのある暮らしですね。教室はご自宅で開催されているのですか?

富田:当初は生徒さんを自宅に招いていたのですが、コロナ禍になってからはオンラインで開催しています。Zoomの使い方すらわからないところからのスタートでしたが、始めてみると便利ですね。日本全国、ときには海外から教室に参加していただけるようになったので、新しい生徒さんとの出会いが増えました。

実は、新型コロナウイルスが発生する前は少し生徒さんの数が減っていたんです。でも、コロナ禍でオンラインが主流になったところでZoomを始めた結果、生徒さんを増やすこともできました。数がすべてというわけではありませんが、「多くの人の役に立ちたい」と思っているのでやっぱりうれしいです。「ピンチはチャンス」。これまでの人生を振り返ってみれば、いつも「ピンチ」が転機になっていましたね。追い込まれたときに行動するからこそ、新しいものに出合えるのかもしれません

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