紫陽花やきのふの誠けふの嘘——子規はどんな情景を読んだのか
花と、人の心の移ろいを詠んだ子規の句
文・書:花塚水結
季節にあった季語を用いた俳句を紹介する連載「魂の俳句」。
第8回目は、「紫陽花やきのふの誠けふの嘘色」(正岡子規)。季語や意味、どんな情景が詠まれた句なのか、一緒に勉強していきましょう!
そして、その俳句を題材にして、大学で書道を学んでいた花塚がかな作品(日本のかな文字を用いて書かれる書道のこと)を書きますので、そちらもお楽しみに!
花と人の移ろいを詠んだ句
俳句:紫陽花やきのふの誠けふの嘘(あじさいやきのふのまことけふのうそ)
作者:正岡子規(1867-1902)
出典:子規全集 第二十一巻
季語:紫陽花(夏)
意味:色が移りゆく紫陽花。この花の色のように、人の心も移ろいやすいものだ
1893年(明治26年)、正岡子規が詠んだ句です。季語は「紫陽花」で、季節は「夏」。
意味は、「色が移りゆく紫陽花。この花の色のように、人の心も移ろいやすいものだ」。人の心の移り変わりを、花に例えて詠んだ句です。
この句が収められている子規全集 第二十一巻には「傾城賛」という言葉が添えられています。「傾城」は遊女、「賛」は絵に添えられる言葉のことで、遊女の気の変わりやすさを詠んだものと言われています。
紫陽花の花弁のように見える部分は「ガク」
紫陽花は土の酸度や時間の経過によって色が変化する花で、別名「七変化」とも言われています。花言葉には「移り気」「浮気」「無常」などがあり、まさに子規の心情をそのまま表しているような花です。
最近は、紫陽花を見に行く機会があったので、たくさん写真を撮ってきました。
さらに紫陽花について調べていると、花弁のように見える部分は、実はガクだと知りました。本当の花弁は、中央部分の小さい花です。
「花弁の色やかたちがたくさんあってかわいいな〜」と思い、夢中で眺めたり写真を撮っていたりしていたのですが、
それはガク(装飾花)の間違いだったのですね……。勉強になりました。
紫陽花を観察していると、色やかたち、ガクの重なり方、大きさなどがすべて異なっていて、その種類の多さに驚きました。人それぞれ顔も声も違うように、紫陽花にも違いがある。今日と明日で変わることもあるけど、変わらないことだってある。
子規の句は遊女の移り気に落ち込んだり、悩んだりと、マイナスな気持ちが反映されているなと感じましたが、それが人間のいいところでもあるかもしれない、と思いながら本句を鑑賞していました。
みなさんはどんな情景を想像しましたか? この俳句を読んでの感想などを、コメント欄でぜひ教えてください(そして、私のかな作品の感想も聞かせてもらえたら、うれしいです!)。
▼前回記事
衣更へて遠からねども橋ひとつ——汀女はどんな情景を詠んだのか
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