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200年以上愛されているコスチュームジュエリーの世界

コスチュームジュエリー研究家・渡辺マリが教える

連載 古き良きものは、いつも新しい 2021.7.23

取材・文:花塚水結

五大宝石以外の材料を主としてつくられるコスチュームジュエリー。ヨーロッパでは18世紀ころから貴族を中心に親しまれてきたものですが、日本ではなかなか価値が伝わらない——そう話すのは、コスチュームジュエリー研究家の渡辺マリさん。

海外では古くから愛されているコスチュームジュエリーとは何なのか、そしてその真価を教えていただきました。

 

人類の歴史にかかわるコスチュームジュエリー

 

花塚:先日、コスチュームジュエリーデザイナーの浅井美恵子さんに取材させていただいたのですが(記事はこちら)、渡辺さんは浅井さんの先生なんですよね。

渡辺:はい、そうです。コスチュームジュエリー制作のゼミをいくつか持っていて、その生徒の一人なんです。それから、コスチュームジュエリーなどを取り扱うお店を国分寺と下北沢でやっています。

花塚:今日はそんな「コスチュームジュエリー」について教えてください!

渡辺:はい、いいですよ。

花塚:早速ですが、コスチュームジュエリーという言葉は日本ではあまり定着していないように思いますが、どんなものなのか教えてください。

渡辺:元々「コスチュームジュエリー」という言葉は日本にはなかったんですよ。いわゆる「アクセサリー」のことなんですけど、五大宝石でない、ビーズやガラス、木などを用いてつくられた服飾雑貨のことをコスチュームジュエリーと言います
五大宝石とは、ダイヤモンド、エメラルド、サファイヤ、ルビー、アレキサンドライト(世界の国や地域によって五大宝石とされる宝石は異なります)のことを指しています。

ブロンディアンドカンパニーを経営する渡辺マリさん。店内にはコスチュームジュエリーをはじめ、照明、漆器、帽子なども並べられている

渡辺:と言っても、私も子どものころからずっと「アクセサリー」という言葉しか知らなくて、「コスチュームジュエリー」という言葉を知ったのは、40歳くらいのときなんです

花塚:コスチュームジュエリーを知ったきっかけは何ですか?

渡辺:コスチュームジュエリーの買い付けにイギリスへ行ったときに知りました。当時はまだ私もコスチュームジュエリーという言葉を知らなかったので、現地の人に「アクセサリーを売っているお店に行きたい」と伝えると、カーアクセサリーのお店に連れて行かれたんですね。それで、「そうじゃなくて、イヤリングとかのことよ!」と、必死で伝えたら、「それはジュエリーだろ」って言われたんです(笑)

コスチュームジュエリーは日本では新しいジャンルですけど、ヨーロッパには18世紀以前からあったものなんですよ

花塚:200年以上も前からあったものなんですね!

渡辺:そうです。当初、宝石やジュエリーは貴族がつけるものだったんですよね。いい宝石を身につけているほど身分が上がるような状態だったわけです。ですが、一般庶民にとってはとても高価なものでしたから、つけられませんでした。すると、貴族を襲って宝石を盗み、財力をつけるというような事件が往々にして起こりました。

貴族たちはジュエリーを身につけずに外に出るわけにもいかず、困った挙句につくらせたのが、ガラスなどの素材を使ったジュエリーだったんです

それでも最初は貴族しか身につけていませんでしたが、19世紀になって産業が発達するとブルジョワが生まれ、その奥様方が、「私も貴族のようなジュエリーを身につけたい」と言ってつくらせたことから、一般階級にも広まり、今にいたっているんです

花塚:ジュエリーは人類の歴史にかかわっているんですね。

ブロンディアンドカンパニーの商品の一部

 

世界的コスチュームジュエリーデザイナーのミリアム・ハスケルの作品との出合い

 

花塚:渡辺さんはコスチュームジュエリー制作のゼミを受け持っているほか、コスチュームジュエリーショップを営んでいますよね。お店に置いている商品は買い付けに行っているのでしょうか?

渡辺:はい。ゼミを集中的に開催するようになる前は、1年に2回程度、海外へ買い付けに行っていました。
下北沢のお店には私のゼミ生の作品を置いているんですが、国分寺のお店には主に海外で買い付けたアンティークものや、ミリアム・ハスケルのコレクションを置いています。

花塚:ミリアム・ハスケルとは……?

渡辺:アメリカ出身のコスチュームジュエリー作家です。私がミリアム・ハスケルのつくった作品に出合ったのは35か36歳のときでしたね。

花塚:どのようにして出合ったのですか?

渡辺:当時の夫がアメリカで買い付けた商品のなかに混ざっていたんです。ブローチの裏面に「MIRIAM HASKELL」と書いてあって、最初はブランドなのか、会社名なのか、これをつくった人の名前なのかわからなかったんですけど。そのブローチはとてもおもしろいつくり方をしているなと思ったんですよね。

何百とあるすべてのパーツがワイヤーで座金に固定されていて、そのワイヤーが見えないようにさらに座金を重ねるかたちでつくられていたんです。さらに、接着剤を使っていないので、すべてのパーツを取り外して修理できるようになっているんですよ。その独自のつくり方を見て、彼女の作品に魅了されてしまいました

ミリアム・ハスケルのブローチの裏面

花塚:本当だ、2枚重ねになっていますね。

渡辺:すごいでしょう。
夫がアメリカで買い付けたブローチに出合って数年後、自らアメリカに行ってミリアム・ハスケルについて調べました。そうしたら、ニューヨークでコスチュームジュエリーをつくっていた作家の女性だということがわかったんです。それからというもの、ミリアム・ハスケルの作品を集めることを決意しました。

ミリアム・ハスケルが制作したコスチュームジュエリー

渡辺:なかにはアンサインドと言って、名前が記載されていない作品もあるんです。これらの作品を集め出したときは失敗もしましたけど、今では間違えないですね。確実に見極めることができます。

花塚:すごい……! 見極めるコツはあるんですか?

渡辺:それはもうたくさんのものを見て、観察するしかないですよね。ハスケルが若いころの作品は、熟練された作品と比べるとまったく異なっていて、おおらかで割と雑なつくりだったり、ワイヤーの代わりに針金を利用していたりするんです。きっと、20〜30代のころは材料にかけられるお金もあまりなかったからだと思います。

 

木やプラスチックの真価

 

花塚:お店にはミリアム・ハスケルがつくったコスチュームジュエリーのみを置いているんですか?

渡辺:いえいえ、買い付けのために訪れた海外でいいなと思った商品を置いているので、ミリアム・ハスケル以外のものもありますよ。

透き通った黄褐色が特徴のアンバー(琥珀)を大量に買い付けたときは飛ぶように売れたんです。それから、アンバーのコレクションをしている会社の方と知り合う機会があって、たくさんのアンバーを仕入れました。一般的には黄褐色が有名ですけど、グリーン、イエロー、ブルー、オレンジ、ブラック……とさまざまな色があるんですよ

アンバーのジュエリー

花塚:透き通っていて、とってもきれいですね。
こちらのジュエリーは漆黒なのに輝いていて、すごくきれいです。

ジェットのジュエリー

渡辺:こちらはジェットです。ジェットは木のことですね

花塚:これ、木なんですか!? 漆黒だし、ツルツルしているのに……!

渡辺:約1億6000年前に立っていた木が倒れて地中に埋もれて、そのまま1億年くらい経つと黒く変化するんです。その途中で動物の死骸とか、燃える要素のリンとかが入ると木炭になる。でも、木だけが化石化すると、ジェットになるんです。化石だから磨けるの。だからこんなにツルツルしているんです

19世紀イギリスを統治してたヴィクトリア女王という人がいるでしょう。ヴィクトリア女王は、大好きだった旦那さんが亡くなってから、30年間も喪に服して、このジェットしか身につけなかったの。宮廷に仕えている人たちも、みんなジェットをつけていました。

でも、日本にはあまりジェットのジュエリーが入ってきていなかったんです。そんな状況もあって、「お店に置いたらおもしろいかもしれない」と思って、ジェットも大量に仕入れていた時期がありました。

花塚:私も「ジェット」というものをはじめて知りました。イギリスでは有名なものなのですね。

渡辺:そうなんです。でも、私のお店に来てくれる常連さんはみなさんジェットのジュエリーを持っているんですよ。いいものだとわかっているので(笑)

ベークライトのジュエリー

渡辺:こちらは、ベークライトというオールドプラスチックでつくられたジュエリーですね。

花塚:普通のプラスチックとは違うのでしょうか?

渡辺:ベークライトは、ベルギー出身でアメリカで活躍していた化学者・ベークランドが開発した世界初と言われる、人工的な合成樹脂なんです。石炭を原料にしてつくられたものです。

普通のプラスチックは石油からつくられているので、熱したフライパンの上に置いておくと溶けてしまいます。ところが、ベークライトは原料が石炭なので焦げるんですよ。ただ、日本では「プラスチック=安い」というイメージが根強いので、商品自体はあまり売れないんですよね(笑)

花塚:たしかに、プラスチックは安いイメージがあるので、いいお値段がするプラスチックのネックレスを買うハードルは高いかもしれないです……。

渡辺:ベークライトが開発されたアメリカでは、第一次世界大戦が終わり、景気のよかった1930年代にベークライトでつくられたジュエリーや小物がとても人気でした。だから、アメリカでは今でも人気が高いんです。

アンバーやジェット、ベークライトなどはとても軽いので、肩こり症の人が多い日本人女性にはピッタリだと思います。ヴィンテージのものはきちんと価値がわかっていると “いいもの” が多いんです。ぜひその価値を知っていただきたいなと思います。

 

渡辺さんのお店でたくさんのコスチュームジュエリーを見せていただいていると、こんなデザインのジュエリーを誰かが身につけていたような……という既視感に襲われていました。最近になって気づいたのですが、某夢の国にいらっしゃるかわいい女の子たちのキャラクターって全員がコスチュームジュエリーを身につけていますよね!? あんなにいいものをつけていたなんて……さすが夢の国! そういえば、アメリカ生まれですもんね。私も、ものの真価がわかる、そんな人になりたいなぁ。また今日も1つ、勉強になりました。

 

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店舗情報

ブロンディアンドカンパニー

〒185-0021
東京都国分寺市南町2-18-3 国分寺マンションB1
電話:042-328-8757
営業時間 12:00頃~19:00頃
不定休

コスチュームジュエラーズカンパニー

東京下北沢駅近くのオリジナルコスチュームジュエリーの店。
渡辺マリ氏のもと、コスチュームジュエリーの女王ミリアムハスケルに学んだ全国19名の作家が「UNIQUE JEWELRY」をモットーにこだわりの1点ものを制作販売しています。日本では「ユニーク=変わっている、おもしろい」などのイメージが強いですが、「オンリーワン」という意味を大切に、作家の思い描くかたちやデザインを追求した、貴女だけのジュエリーを見つけてみてください。

〒155-0031
東京都世田谷区北沢2‐23‐11
営業時間:11:00〜17:00
定休日:月曜日(臨時休業有)
HP: https://cjc-shop.jimdofree.com/

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