2021年８月に公開される映画と、その原作小説を紹介します。公開まであと１カ月。ぜひ小説を読んで作品の世界観を想像してから、映画館へ足を運んでみてください！

 

2021年８月６日公開
「キネマの神様」

 

１作目は、2021年８月６日に公開される「キネマの神様」。『男はつらいよ』『釣りバカ日誌』などで知られる山田洋次監督によって、“映画の神様” を信じ続けた男の姿が描かれます。

映画に魅せられた主人公・ゴウを演じるのは沢田研二さん。当初は志村けんさんが演じる予定でしたが、2020年３月末に新型コロナウイルスで急逝されたため、代役として沢田研二さんに白羽の矢が立ちました。若き日のゴウは菅田将暉さんが、ゴウの妻・淑子の若き日を永野芽郁さんが、年齢を重ねた淑子を宮本信子さんが演じます。

本作の原作となったのは、原田マハさんの『キネマの神様』。39歳独身のキャリアウーマン・円山歩が会社に辞表を提出したその日に、映画とギャンブルが趣味の父・郷直（ゴウ）が突然倒れ、さらにはゴウが多額の借金を抱えていると発覚するところから物語は始まる——。

なんとこの作品、原田さんの家族をモデルに書かれているのだとか。ギャンブル好きで借金を抱えている父、そのせいで人生を台無しにされたと嘆く母、会社内部のいざこざが原因で職を失った娘。これらの設定はすべて原田さんの体験にもとづき、描かれているのだそうです。

ゴウがブログに投稿したコメントがきっかけで、老舗映画雑誌『映友』の編集部にライターとして起用されることになる歩。さらにはゴウも「キネマの神様」と題したブログを展開することになり、そこから円山家の人生が大きく変わっていきます。

ハートウォーミングな物語で、どうしようもないけど、どうしようもなく愛すべき存在であるゴウが変化していく姿には心打たれます。ゴウがギャンブル依存から抜け出し、愛情深く映画を論じる場面には涙を流しそうになりました。でも、この場面、映画では描かれないんです……！

というのも、映画版は原作とは内容が大きく異なるらしいのです。山田洋次監督により、登場人物のキャラクターは生かしつつもストーリーにはかなりの変更が加えられているのだとか。映画では、ギャンブル好きの元・映画助監督ゴウが、50年前に取り組んでいた「キネマの神様」を現代版として蘇らせるというストーリーが展開されます。『映友』もブログ「キネマの神様」も登場しないんです！

どちらも「家族の再生」と「映画の持つ力」が描かれていますが、物語はまるきり別物。ですが、長年活躍されている山田洋次監督がどのように「映画のもつ力」を表現するのか、山田監督自身の経験がいかにしてゴウに投影されているのかをスクリーンで観るのは楽しそう。「キネマの神様」がどのように描かれるのかも注目です！

映画情報

「キネマの神様」
公開日：2021年８月６日（金）
監督：山田洋次
原作：原田マハ
脚本：山田洋次、朝原雄三
出演：沢田研二、菅田将暉、永野芽郁、野田洋次郎、北川景子、寺島しのぶ、小林稔侍、宮本信子、前田旺志郎、リリー・フランキーほか
配給：松竹
https://movies.shochiku.co.jp/kinema-kamisama/

書籍情報

原田マハ『キネマの神様』（文春文庫）
定価：680円（＋税）
発売日：2011年５月10日
ISBN：978-4-16-780133-5
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167801335

 

 

2021年８月20日公開
「ドライブ・マイ・カー」

 

２作品目は、2021年８月20日に公開される「ドライブ・マイ・カー」。『ハッピーアワー』や『寝ても覚めても』で知られる濱口竜介監督が、妻を失った男・家福悠介の「喪失と再生の物語」を描きます。

妻を亡くした舞台俳優であり演出家の家福悠介を演じるのは西島秀俊さん。家福の専属ドライバーを務める女性・渡利みさきを演じるのは三浦透子さんです。家福の妻で脚本家の家福音役は霧島れいかさんが、家福音と肉体関係にあった俳優の高槻耕史役は岡田将生さんが務めます。

本作の原作となったのは、村上春樹さんの短編集『女のいない男たち』に所収されている「ドライブ・マイ・カー」。原作では、家福がみさきと出会い、家福が移動中の車内で友人の話をするところから物語が展開されます。そこで家福が “かつて友人だった” と語るのは、死んだ妻が生前、肉体関係にあった俳優の高槻。なんと家福は、高槻が妻と関係を持った相手だったと知りながら友人になろうと声をかけたのです。妻がなぜほかの男と関係を持ったのか、自分には何が足りなかったのか——妻が生きているうちに聞けなかった思いを、高槻を通して知ろうと試みたのでした。

『女のいない男たち』には「ドライブ・マイ・カー」のほか、「高校時代に好きな男の子の家へ空き巣に入ったことがある」と語る女が登場する「シェエラザート」、妻がほかの男と肉体関係を結んでいるシーンに遭遇してしまった男の物語「木野」など、６つの作品が収録されています。そして、映画「ドライブ・マイ・カー」には「シェエラザート」と「木野」のエピソードも盛り込まれているんです！ これは原作を読んでから映画館に行くっきゃない。

映画版「ドライブ・マイ・カー」は、家福が妻を亡くした２年後、広島の映画祭で演出を任されることになり、現地へ向かうところから物語が展開されます。小説内では東京で出会っていたみさきや高槻とも、広島で出会うそうです。

村上春樹さんが『女のいない男たち』を通して描いた「喪失と再生の物語」を、濱口竜介監督はどのように描くのか。原作小説と映画の内容を照らし合わせながら観ると、よりおもしろい視点を獲得できそうな作品です！

映画情報

「ドライブ・マイ・カー」
公開日：2021年８月20日（金）
監督：濱口竜介
原作：村上春樹
脚本：濱口竜介、大江崇允
出演：西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、岡田将生ほか
配給：ビターズ・エンド
https://dmc.bitters.co.jp/

書籍情報

村上春樹『女のいない男たち』（文春文庫）
定価：680円（＋税）
発売日：2016年10月７日
ISBN：978-4-16-790708-2
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167907082

 

 

2021年８月27日公開
「鳩の撃退法」

 

３作品目は、2021年８月27日に公開の「鳩の撃退法」。直木賞作家である佐藤正午さんの同名小説が原作の作品です。

というわけで、みなさん、『鳩の撃退法』はヤバい！！　とにかくヤバい小説です。過去と現実、事実と虚構が交差する物語に震えます。読んでいて足元が揺らぐ感覚に陥るのです。文庫本で1000ページ超えとかなり長く濃い作品なのですが、物語の中盤、ここまで１ページ１ページ積み重ねてきた「現実」がぐらぐらと音を立てて崩れ落ちます。そこからわなわなと、慎重に読み進めなければならないのですが、何が起こっているのかとにかくわからない。こんな圧倒的に不可解で圧倒的に恐ろしい読書体験ははじめてです。

すみません、ここまでヤバさばかり語ってしまい、ストーリーに一切触れていませんでした。かつての人気作家・津田伸一がとある地方都市に流れ着き、風俗店の送迎ドライバーとして働いています。ある明け方にドーナツショップで言葉を交わした男・幸地秀吉が、その翌日に妻と幼い娘とともに忽然と姿を消してしまう。それから１年２カ月後、今後は津田の手元に偽札が届くのだが、その偽札をたどっていくと幸地家の「神隠し」事件とつながっていて……!?

などと、とにかくアブない匂いのする事件ばかりが起こる物語です。しかも、津田がその事件を元に小説を書き始めて、私たち読者はその小説も同時に『鳩の撃退法』のなかで読むからより状況をむずかしくさせるわけです。大丈夫ですか、みなさん、このヤバさ伝わっていますか……？

兎にも角にも、そんなヤバい小説が藤原竜也さん主演で映画化されます！　映画では、私が小説で感じた不可解さを、土屋太鳳さん演じる編集者の鳥飼なほみが１つずつ解明してくれるのだとか。頭のなかのモヤモヤを映画が解消してくれるなんて、うれしすぎる！　少し長くて読むのは大変ですが、ぜひ小説を読んでから映画館へ足を運んでみてください！　ああ……公開日が待ち遠しい……。

映画情報

「鳩の撃退法」
公開日：2021年８月27日（金）
監督：タカハタ秀太
原作：佐藤正午
脚本：藤井清美、タカハタ秀太
出演：藤原竜也、土屋太鳳、風間俊介、西野七瀬、豊川悦司ほか
配給：松竹
https://movies.shochiku.co.jp/hatogeki-eiga/

書籍情報

佐藤正午『鳩の撃退法』上・下（小学館）
定価：790円（＋税）
発売日：2018年１月４日
ISBN：9784094064865（上）
　　　  9784094064872（下）
https://www.shogakukan.co.jp/books/09406486
https://www.shogakukan.co.jp/books/09406487