編集者・依田邦代の「輝き方」
63歳—— “女一生の仕事” と歩む人生
取材・文:出口夢々
「60代を迎えたからこそ、仕事があるおかげで人生が楽しくなっているんです」
新卒で入社した主婦の友社で雑誌『+1Living』などの編集長を務め、書籍編集者になったのち、退職後もフリーランスの編集者として働いている依田邦代さん。40年以上本づくりに携わる依田さんの輝き続ける秘訣を伺いました。
「仕事」で自分が自分らしくいられる
——「グレイヘア」の記事では大変お世話になりました。2018年に主婦の友社を退職されてから、すぐに会社を立ち上げ、編集の仕事を続けているとお話する依田さんがとても輝いて見えたので、本企画でもお声がけさせていただきました。
依田:ありがとうございます。輝き続けているかどうかはわかりませんが、60歳まではとにかく全速力で走り続けている感覚がありました。息が切れそうになることもありましたが、どうにか定年まで勤め上げ、ラッキーなことに最後の何年かはヒット作にも恵まれて、満ち足りた気分で会社を卒業したわけです。
「退職したら1年くらい京都で暮らそうかな」と考えていたこともありましたが、元の会社の仕事を手伝ってほしいと言われ、少しお手伝いをしています。やはり、自分がつくった本に対して読者からリアクションがあるときが編集者として一番うれしいし、私と同じ思いを抱えている人がいることに心のつながりを感じます。
ここ何年か「AIが人間にとってかわる」と言われていますが、本づくりは、自分の頭のなかの概念をかたちにすることで、多くの人の共感を得たり、気づきを与えたり、思考や行動を変容させられます。これはやはり、AIには代われない、感情がある人間だからこその仕事だと思うんです。ですので “女一生の仕事” として取り組んでいます。60代を迎えたからこそ、仕事があるおかげで人生が楽しくなっているんです。私にとって仕事は、自分が自分らしくいるために必要なものなんです。
——40年も編集者として働いて、「もう仕事に行きたくないな」と思うことはなかったのですか?
依田:何度もありましたよ(笑)。でも、朝起きて、簡単に身支度をして、電車に乗って職場へ向かうという一連の流れが身体に染みついているんです。心は休息を求めているのに、身体はうずうずしてしまうんですよね。2018年に退職し、すぐに自分の会社を立ち上げたのですが、最初は会社へ行かないことが不安で。40年も通勤して会社で働いていたので、環境の変化に慣れなかったんですよね。でも、新型コロナウイルスの流行でみんなの暮らしが一変し、今では在宅ワークがあたり前になりました。コロナ禍で困惑することもありましたが、以前抱えていた「みんなは会社で働いているのに、私は家にいてよいのだろうか」という不安はなくなり、これまで身体に染みついていたルーティンを崩すよいきっかけになりましたね。
依田:今は週に3〜4日ほど働いています。とは言っても、メールチェックをしたり資料を読んだりと、なんだかんだ毎日仕事のことを考えていますね。夕食後のテレビチェックもずっと欠かさない習慣です。興味のあるテレビ番組はすべて録画して、早送りで観るんです。心を動かされた人や物事があると、それについて調べたり資料を集めて読んだりして、本にできないか考えています。1日に6、7本録画してチェックしているのですが、最近は途中で寝落ちしてしまうこともあって(笑)。「ああ、体力が減ってるな」と思いながらコーヒーを淹れて、チェックを再開します。仕事に取り憑かれているというか、編集職に魅せられているというか(笑)
健康でいるために食にはこだわる
——同じ仕事に就く者として頭が下がる思いです……。息抜きになる時間はあるのでしょうか?
依田:料理は気分転換になりますよ。編集の仕事と料理は共通することがとても多くて。どのような材料を集めて、それらをどう組み合わせて、どう調理すれば人の興味を惹き、「おいしい!」と満足してもらえる料理になるのかを考えるのは、本をつくるのと似ていて楽しいです。あれ、また仕事の話になりましたね(笑)
依田:歳を重ねてからの美しさは何より「健康美」だと思うので、そのために「食」は大切に、というのがポリシーです。週に一度、生活クラブが届けてくれる食材と、それ以外に購入した食料品を余すところなく使い切るよう、フードロスを出さないように献立を考えます。野菜やタンパク質、炭水化物など栄養のバランスはゆるく意識していますね。
料理本もつくってきたので、そのときの知識をベースに料理をしていますが、最近は有名なシェフや料理研究家のYouTubeを覗き、インスピレーションを得て自己流レシピをアレンジすることが多くなりました。最近つくっておいしかったのは、梅沢富美男さんが紹介していたトンカツです。丁寧にスジを切って、叩き、お肉を成形してから揚げる。このひと手間でいつものトンカツがとってもおいしくなって、「ひと手間かけるだけでこんなに味や食感が変わるんだ!」とさらに料理が楽しくなりました。料理研究家の藤野嘉子さんや家政婦のタサン志麻さんのレシピも、ひと手間でグッとおいしくなる知恵が散りばめられているのでよく参考にしています。
また、食材を選ぶときには必ず食品パッケージの裏を見て、危なそうな添加物が入っていたら買わないようにしています。添加物なしの生活を続けていると、変な添加物が入っているものを口にしたときに、舌が反応するんです。嫌な味がしつこく残ったり、舌がピリピリしたり、口のなかに油の膜が張りついたり。消化器官でもこのような反応が起こっているのだろうな、分解できない化学物質を摂ると身体のなかに蓄積され、身体に負担をかけるんだろうなと思うので、できるだけ体内に入れないようにしています。無添加の食品は値段が割高なことも多いので、使い切るよう気をつけています。残して捨てたらもったいないですし、フードロスにもなりますからね。
——食材はどこで購入されることが多いですか?
依田:六本木にあるグランドフードホールが好きで、ときどき足を運びます。食材の入手ルートを調べたり、グランドフードホールやECサイトでたくさんの食材を見て、いいものを探し出しています。年齢を重ねるということは、経験値がアップするということ。そうすると「これよさそう」と感知する力が磨かれ、いいものに出合いやすくなるんです。
食にはこだわりがありますが、それ以外のアイテムはあまり固執せずに、気になったものを取り入れてみることが多くなりました。若いときは「これがなくては生きていけない」と思うくらいこだわりがありました。当時はブランドや会社によって品質の差が目立っていたので、いいなと思ったものに固執していたんです。でも、最近はプチプライスでもハイブランドでもよいアイテムが充実していますから、「こだわり続けるのは損だな」と思い、気になったものはどんどん試しています。日々の暮らしに新しいアイテムを追加すると、自分がアップデートされていく気がしますね。
また、つくった人がわかるものに惹かれるので、服やアクセサリーも知り合いのデザイナーがつくったものを購入したり、作家さんから直接購入できるサイト「Creema」で購入したりします。使うときにつくり手の顔を思い出し、つくり手の思いを感じられるとハッピーな気分になれるんですよね。
依田:みんなが憧れるような、かっこいいキラキラした習慣はありませんが、やはり私は本をつくったり、文章を書くことで社会とつながっていたいし、誰かがそれを読んで「うれしい」「楽しい」「知ってよかった」「感動した」と感じてもらえることを続けていきたいと思います。そして、それを叶えるために大事なのはやはり健康です。元気でいれば「これやりたい!」というものがあったときにパッと行動に移せると思うので、食べ物には気をつけているんです。
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