映画批評家・前田有一が選ぶ「愛にあふれる」映画5選
いろんな「愛」のかたちに触れてホットな気分になろう
文:前田有一
寒い冬は、なんだか心も寒さを感じてしまう。そんなときは、愛ある映画でホットな気分になってみませんか?
そこで、映画批評家の前田有一さんに「愛にあふれている映画」をテーマに5作品選定していただきました。近日公開予定の作品もあるので、ぜひ鑑賞してみてください!
上映ラインナップ
1.ワン・モア・ライフ!
2.イキガミ
3.バレンタインデー
4.天使の分け前
5.サイドカーに犬
寿命が「92分間」延長した中年男の物語
『ワン・モア・ライフ!』
本作は、制作本国のイタリアで熱く支持されたコメディドラマです。
主人公はちょっとマヌケな中年男で、スクーターでの通勤時、赤信号ぎりぎりで交差点に突入するスリルを楽しむような男です。ところがある時、タイミングを誤りトラックと激突、あの世行きになってしまいます。
それでも、天国の “受付” で「いくらなんでも死ぬのが早すぎる!」と身勝手なクレームをぶつけて猛抗議すると、意外にもアチラの手違いが判明。92分間だけ命の復活を許されます。さて、地上に戻った彼はこの “ロスタイム” で何をするのか、何をすべきなのか——。
これまで彼の人生は間違いだらけで、妻と喧嘩するわ、妻の友達と浮気するわで、今じゃ年頃の娘からも総スカン。仕事も子育ても中途半端な彼は、はたして残り92分間で完璧な人生のラストシーンを迎えることができるのか!?
この手の終活映画は、家族と和解して本当の愛を実現して満足して大団円、という作品が多いわけですが、考えてればたったの92分間で、これまでテキトーに生きてきた男の人生が急にうまくいくのも都合がよすぎる話です。
その点、本作はハリウッド映画的な “お約束展開” をすべて無視。しかし、最後の数分間でとんでもない展開を見せ、予想もしない着地点へと私たちを連れていきます。
先行き不安なこの時代にピッタリな、あまりにも力強いそのメッセージに私は衝撃を受けました。日本人には思いもつかない価値観で励まされたような気がして、さすがイタリア人は人生の達人だなと感服したものです。
『ワン・モア・ライフ!』(2021年3月12日(金)より公開)
監督・脚本:ダニエーレ・ルケッティ
出演:ピエールフランチェスコ・ディリベルト、トニー・エドゥアルトほか
公開:2021年3月12日(金)よりヒューマントラスト有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
配給:アルバトロス・フィルム
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「余命24時間」を宣告されたら、人は最期に何をするのか
『イキガミ』
本作は、漫画家・間瀬元朗の同名コミックを松田翔太の主演で映画化した作品で、上記で紹介した『ワン・モア・ライフ!』とセットで見てもらいたい日本映画の傑作です。
舞台となるのは、現代の日本によく似た架空の国。この国では「国家繁栄維持法」により安定した社会が実現しています。この法律では、18~24歳の1000人に1人が無作為に選ばれ、死ぬことが定められています。小学校入学時に全員が接種するナノカプセルが、死をもたらすしくみになっているのです。限られた世代の1000人に1人というわずかな犠牲により、全国民が「命の大切さ」を実感する——そのお陰で犯罪も減ったとされており、素晴らしい法律であるという設定になっています。
そして、その法律により死ぬことが決まった「死亡予定者」へ、死ぬ24時間前に配られるのが通称・逝紙(イキガミ)。その配達人である公務員(松田翔太)の目で見た、それぞれの若者たちの最後の24時間のドラマが描かれます。
突飛な設定ですが、その設定以外はシリアスかつリアルな人間ドラマで、号泣確実な物語が続けざまに味わえます。『ワン・モア・ライフ!』の主人公とは正反対に、死を宣告された者たちはそれぞれ、人生の最期の選択を行うため驚くべき生命力を発揮します。
「残り24時間の命ならば、人間は、人生はこれだけ輝くことができるのだ」と訴える本作は、圧倒的なまでの人間賛歌といえるでしょう。
『イキガミ』
DVD発売中 ¥3800+税
発売元:小学館・TBS
販売元:東宝
©2008間瀬元朗/映画「イキガミ」製作委員会監督: 瀧本智行
脚本: 八津弘幸、佐々木章光、瀧本智行
出演:松田翔太、塚本高史、成海璃子、山田孝之、柄本 明ほか
配信しているサイト:Netflix、U-NEXT、TSUTAYA TV、Amazon prime videoなど
総勢「15人」の大スターたちが織り成す大人のラブロマンス
『バレンタインデー』
バレンタイン映画らしい、ラブラブ感満載な豪華恋愛アンサンブルドラマです。
舞台はロサンゼルス、バレンタインデーの朝。最愛の恋人(ジェシカ・アルバ)にプロポーズをOKしてもらった花屋のオーナーであるリード(アシュトン・カッチャー)は大喜び。1年で一番忙しいこの日も、幸せ気分でお客さんに笑顔を振りまいています。そんな彼を中心に、たくさんの愛に悩む人々のドラマが複数同時多発的に展開します。
男女総勢15名は、みな名だたる大スターばかり。老若男女、さまざまな愛のカタチを、飽きることなく断続的に見せていきます。細切れのドラマ集のような構成ですが、それがスピード感を生んでいて退屈しません。
「まあ皆さん、いろんな悩みをお持ちですねえ」と余裕ぶっこいて眺めるもよし、美男美女揃いのキャストの名演技に見惚れるもよし。全編ラブラブオーラが満載で、この映画ほど「愛にあふれる」作品はほかにありません。
映画の終盤には、あらゆる観客の心を揺り動かす感動の連続見せ場が用意されています。特に女性将校役を演じた大スター、ジュリア・ロバーツのパートは、一番おいしいところを持っていった印象です。彼女と、イケメン俳優アシュトン・カッチャーの物語を交互に見せる演出は、この手の群像ドラマの真骨頂。涙なくしては見られません。
『バレンタインデー』
ブルーレイ ¥2,619(税込)/DVD ¥1,572(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
© 2010 New Line Productions, Inc. All rights reserved.監督:ゲイリー・マーシャル
脚本: キャサリン・ファゲイト
出演:アシュトン・カッチャー、ジェシカ・アルバ、 ジュリア・ロバーツ、アン・ハサウェイほか
配信しているサイト:Netflix、U-NEXT、TSUTAYA TV、Amazon prime videoなど
貧しい青年を救うために必要な「分け前」とは――
『天使の分け前』
私が思うに、世界一の社会派映画監督であるイギリスのケン・ローチによる人間ドラマです。
スコットランドの荒れた街で子供時代を過ごした青年ロビー(ポール・ブラニガン)は、恋人の妊娠が判明したあとも暴力事件を起こしてしまうほど、すさんだ生活を送っています。そんな彼が、気のいい中年男性である指導員のハリーからウイスキー文化の薫陶を受け、人生を立て直してゆく物語です。
常に弱者に寄り添ってきたケン・ローチ監督の温かい視線は本作でも健在で、持たざる労働者階級のふたりがウイスキーを媒体に出会い、人生をやり直す姿が説得力たっぷりに描かれます。富の再分配が機能しない社会批判をさりげなく盛り込むあたりも巧いです。
人は、性根が悪いから悪い事をするとは限らない。まっとうに生きることができる環境さえあれば、愛情の力で立ち直ることができるのだという本作のメッセージは、非常に力強く、大いに共感できます。
タイトルにもなっている「天使の分け前」とは、ウィスキーが熟成するあいだ、わずかに蒸発する分のこと。貧しい人々を救うのはその程度の「分け前」で十分なんだぞという、監督の信念が伝わる素晴らしいタイトルです。
ロビー役のポール・ブラニガンは、演じた役柄とよく似た境遇で、幼い息子を抱えたまま失業して自暴自棄になりかけていたときに、ケン・ローチ監督に映画出演のチャンスを与えられました。ケン・ローチ監督は口だけでなく、積極的にこうした若者を映画に出演させることで彼らの人生を救っているのです。
天使の分け前(2010年)
監督:ケン・ローチ
脚本: ポール・ラヴァーティ(英語版)
出演: ポール・ブラニンガン、ジョン・ヘンショウ、ウィリアム・ルアン、ガリー・メイトランドほか
配信しているサイト:TSUTAYA DVDレンタルなど
父親がある日突然連れてきた「若い女性」との幼きころの記憶
『サイドカーに犬』
小説家・長嶋 有の同名小説を実写化した女性映画です。
30歳の薫(ミムラ)は、弟の結婚披露宴に離婚した両親が出席すると聞き、ある出来事を思い出します。20年前、母が出て行ったと同時に、入れ替わりにやってきた不思議な女性ヨーコさん(竹内結子)。ヨーコさんはカッコイイ自転車に乗った豪快な女の人で、まじめで厳しかった母とは対照的な性格でした。幼かった薫は彼女から大きな影響を受け、やがてヨーコさんは忘れられない存在になっていくのですが……。
1980年代を舞台に、突然父親が連れてきた若い女性と、娘の奇妙な交流が描かれます。主人公にとって、まだ大人たちの複雑な人間関係を気にせずにいられた無邪気な少女時代の、ほろ苦くもかけがえのない体験は、大切な人の思い出を胸に抱く誰にとっても切ない共感を呼び起こしてくれるでしょう。
特筆すべきは急逝した竹内結子の素晴らしい演技で、この映画は間違いなく彼女の女優としての最高到達点です。芸術家肌で浮世離れした、しかし愛情深い女性を魅力たっぷりに演じています。
彼女が、母性と友情のどちらを表すべきか戸惑いながら薫に接するときの表情が素晴らしい。大好きな男性に結婚してもらえるわけでもない、ヨーコさんの不安定な立場を考えると、見ているこちらは胸が張り裂けそうな思いになります。
いつまでも心に残る、日本映画らしい味わいがある映画です。忘れられない人がいる人には、ぜひ見てほしいと思います。
サイドカーに犬(2010年)
監督:根岸吉太郎
脚本: 田中晶子、真辺克彦
出演: 竹内結子、古田新太、松本花奈、鈴木砂羽、ミムラほか
配信しているサイト:U-NEXT、Amazon prime videoなど
観てみたい! と思った映画や、実際に観た感想をぜひコメント欄で教えてください。
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前田有一
東京都浅草出身。映画批評家。テレビ、ラジオ、週刊誌、新聞などマスメディアや9300万ヒットWEB『前田有一の超映画批評』にて独自の「批評エンタテイメント」を展開中。映画&落語トークライブ「オモシロ映画道場」をはじめ、国際映画祭実行委員、こども映画会等のイベント出演、各種講演など、映画ファンを広げる活動も行う。また、政治記者・キャスターとしての顔も持ち、隔月で国会議員を招く市民政策研究会を開催している。著書『どうしてそれではダメなのか。~日米中の映画と映画ビジネス分析で、見える世界が変わる』(玄光社)ほか
公式サイト:超映画批評 https://movie.maeda-y.com/
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