老後の「孤独」とどう向き合うか?
好きなことをしながら1人で最期まで生きると決めた
取材・文:花塚水結
高齢者の「孤立」や「孤独死」が問題になる近年。「おひとりさま」はもちろん、家族がいる人でもパートナーに先立たれてしまえば、1人の老後を迎えてしまします。お墓や老後、病気など、将来の不安はつきません。
そんななか、『老後はひとりがいちばん』(海竜社)、『孤独こそ最高の老後』(SB新書)の作家で、自身も「おひとりさま」で生活している、NPO法人SSSネットワーク代表の松原惇子さんにお話を伺いました。1人や孤独とどう向き合っているのでしょうか?
「1人で生きる」女性の居場所をつくる
花塚:仕事をする傍ら、「おひとりさまの女性」を応援するNPO法人SSSネットワークを立ち上げていらっしゃいますが、どのような経緯があったのでしょうか?
松原:SSSネットワークは、丁度わたしが50歳となった1998年に立ち上げました。
当時、女性は結婚して家庭に入り、専業主婦をするのが一般的でしたが、ふとまわりを見たときに、1人で働いて生きている女性が増えているなと感じたんです。同時に、「この人たちの老後はどうなるんだろう?」と考えるようになりました。
花塚:なぜ、そのように考えるようになったのでしょうか?
松原:日本の制度やサービスって、すべて「家族がいる」ことが前提になっているんですよ。
たとえば、保証人。日本はどんな契約にも保証人をつけなければならないことが多いと思います。病気になって手術をするとき、有料老人ホームに入るとき……。1人で生きている人にとって、保証人を立てないといけないというのは一番困ることです。それ以外にも、1人で生きていくには、大変なことがたくさんあるなと思いました。
松原:私も1人で生きてきたので、50歳の節目でふと立ち止まったんですね。「今はいいけど、10年後は親も友達も死んで、その後どうすればいいの?」と。
だから、1人で生きてきた人たちが集まって、自分たちで問題解決したり、情報収集したりできるネットワークをつくろうと思い、SSSネットワークを立ち上げました。
立ち上げ当初は、お遊び感覚だったんです。コミュニティを大きくすることも考えていなかったですし、正直、50歳のときに30年後の未来のことなんてわからないじゃない。ただ同年代のみんなで集まることが楽しかったんだけど、現在はあり方が変わったと思います。
花塚:どのように変わりましたか?
松原:SSSネットワークをつくって20年以上が経ち、私も72歳になりましたが、まわりの人も同じように歳を重ねた人たちがたくさんいるの。会員には私よりも歳上の80~90代の人、すでに亡くなった人もいます。立ち上げたとき「わからない」と思っていた将来が現実に見えてきて、自分が求めるものや、まわりの人からも新たなニーズが出てきました。その1つがお墓です。
花塚:お墓を建てられたのですか?
松原:ええ。2000年に、会員限定の共同墓をつくりました。
普通の共同墓は、お寺や霊園の隅に配置されていて、暗い雰囲気じゃないですか? 私、そんなところに入るのが嫌だなと思っていたんです。せっかく1人で生きることを選択して充実した自立生活を送ってきたんだから、美しいお墓に入りたいと思っていました。
ある日、偶然見学しに行った霊園でバラに囲まれた共同墓を見て、とても美しいと感じたんです。それで「私が入りたいのはこのお墓だ!」と思いました。運営している会社に、SSSネットワーク専用の共同墓をつくってほしいと直談判しに行ったんですけど、すぐに社長が賛同してくれて、たくさんの協力をしてもらいました。
そうしてできた共同墓は、会員の女性限定で入ることができるんです。名前はクリスタルボードに刻まれているし、本当にとてもきれいなのよ。年に一度、満開のバラのなかで追悼式も行っているんだけど、みんなでまわりのベンチに座ってワインを飲んで、本当に華やかで、素敵な時間を過ごしています。
これでお墓の心配はいらないわね、と思ったのですが……。あるとき会員に「お葬式や火葬はどうしたらいいんですか?」と言われてしまったんです。そこで、共同墓をつくってくれた会社にお願いして、会員限定の直葬プランもつくってもらいました。
これで、お墓に入るまでの安心を提供できているんじゃないかなと思います。
花塚:「1人で生き抜く」ためには、お墓や、お葬式のことも考えておかないといけないのですね。親のお墓に入ったり、家族に頼るという選択はなさらないのですか?
松原:「親のお墓は仲の悪い兄弟が引き継いでいるから、1人で生きている自分は親のお墓に入れない」——。1人で生きる多くの人がこの現実を抱えていると思いますよ。
家族は、必ずしも素晴らしい関係だとは限りません。他人との距離が近すぎるとうっとうしく思うこともあるでしょうし、みんな何かしら事情を抱えていると思います。
それに、家族にしてみれば1人で生きている人のことなんて、あまり考えていないでしょうしね。
花塚:「1人で生きる」とは、家族にも頼らないということなんですね。
松原:そうです。だから、おひとりさまは、おひとりさま同士で仲よくすればいいという考えなんです。
SSSネットワークではこうした活動もしていますが、お墓やお葬式を提供する場所ではなく、あくまでも「おひとりさまの女性」を応援する場所です。ですから、「1人で生きていくための知恵」を教えています。
花塚:具体的には、どのようなことを教えてもらえるのでしょうか?
松原:たとえば、マンションのオートロックはおすすめしていません。万が一、家で何かあったときに誰もなかに入れないからです。
以前、知り合いから「体調が悪い」と連絡がきたんですね。それで彼女の家に行ったんですけど、私が家に着いたころには、彼女はオートロックを解除ボタンも押せないほど、体調が悪くて動けなかったの。そうなれば、もう警察を呼んで開けてもらうしかなくて。
このように「1人で生きる」ことに特化した知恵を教えています。
花塚:実際に体験した人でしかわからないような知恵ですね。
自分らしく生きるために施設へ入居はしない
花塚:松原さんは、お1人で生活をしていらっしゃいますが、施設などへの入居は考えていないのでしょうか?
松原:私、施設に入るのは嫌なの。一度は入居を考えて、老人ホームの見学などにも行きましたが、その上で私は入らないと決めたんです。
施設で働く人は管理する側、入居する人は管理される側に分かれるでしょう。そうなると、人の言うことを聞いて生活しなければならなくて、自由じゃなくなるじゃない。
実際に入居している人たちからは、気を遣って生活しているという話も聞きます。それは私が求めていることではないのよね。
海外の老人ホームへ見学しに行ったこともあるけど、そこは日本とは大違いでした。
デイサービスに行くだけなのに、みんなきちっとした身なりをしているの。女性はきれいな色の洋服を着て、お化粧をして、髪を整えて、アクセサリーをして。男性もピシっとしたYシャツにネクタイをして。「老後は人に頼って生きていこう」なんて甘えた考えを持つ人はいなくて、そんな姿が本当に素敵だったわ。
一方、日本人はわざわざおしゃれをしてデイサービスに行く人は見かけないじゃない。それに、施設に入るのは「人に頼るため」でしょう? 「生きる姿勢」の違いを感じたわ。
花塚:老後や施設に対する考えが、まったく異なりますね。
松原:そうなのよ。
私の父は、80歳を過ぎても元気だったけど、動脈瘤を抱えていて。それでも手術は受けないと決めて、自宅で生活していたの。そしたらある日、動脈瘤が爆発してコロッと亡くなりました。
外国人高齢者や、父のように、自分らしく生きていれば、ある日ぱったり死ねるんだなって思ったの。私は、それが自分の理想だと思って、施設には入らないと決めたの。
それに、これからの社会は何があるかわからないじゃない。年金もカットされるかもしれないし、経済が安定するとも限らない。そのなかで、企業が運営する有料老人ホームに入っても、会社が破綻すれば終わりだからね。
花塚:いろいろな経験をとおしてのご決断なのですね。
孤独にはさみしさと自由がある
松原:1人で生きる——つまり、自立するということは、孤独もついてくると思うの。
そして、孤独には2つの意味がある。1つはさみしさ。もう1つは自由。だから「1人はさみしくて嫌だ、誰かと一緒にいたい」とだけ思っている人は、自由の素晴らしさを知らないのね、と思います。
でも、このように考えることができたのは、自分にも「さみしい」とだけ感じる経験があったからなんです。
SSSネットワークを立ち上げた当時、女性は結婚して家庭に入り、専業主婦をするのが一般的と言ったでしょう。私のまわりの人もみんな結婚していたし、子どももいたのよね。一方、自分は結婚もしていないし、仕事も思うようにいかなくてお金もないし、何をしたらいいかわからなかった。
花塚:松原さんにもそのようなご経験があったのですね。
松原:あったわよ。あったからこそ、作家にもなれたんだと思う。自分が経験しているから、本当に「さみしい」人たちの気持ちが手に取るようにわかるの。さみしいときって、他人がよく見えるし、さみしさを人で埋めようとするのよ。でも、いざさみしさを人で埋めてみても、楽しいのはその場だけだった。
花塚:なるほど……。そのさみしさから抜け出すためには、どうすればいいんでしょうか?
松原:さみしさから脱却するには、自分が集中できることを持つことね。
私は、作家として本を書いているときが一番幸せ。もちろん本を1冊書き上げるのはとてもしんどいのよ(笑)。書かなくちゃいけないと、いつも追われていて。
でもね、書いているとだんだん筆が乗ってくるの。そういうときって、「とても充実してるなぁ。さみしい気持ちなんて、どこかに行っちゃった」と思うのよ。だって、集中しているときは将来の不安なんて考えなくてすむもの。うまく書けた日には、ご飯を食べに行ったり、ワイン飲んだり、サウナに行っちゃって、それでぐっすり眠る。
目的があれば過程が楽しくなるでしょう。結果はどうでもいいの。人生も同じだと思っていて、死ぬことなんてどうでもいいの。今を生きることが楽しいんだから、そのためにはやりたいことをやるのが一番よ。でも、家族がいたらやりたいことを静かに考えられないでしょ? だから1人は素晴らしいと思うの。
花塚:自分の好きなことをするって最高ですよね。
松原:そうよね。でも、好きなことをしながら1人で最期まで生きると決めたので、健康には気をつけてる。特に足ね。階段を降りるときは、手すりの近くから離れない。好きなことができるのは、健康あってのことだから。
花塚:確かに……! 健康に気を使うことは、1人で生きていく覚悟として大事なことですね。
現在の生活のように、好きなことをしていればもうさみしいとは感じませんか?
松原:いやいや、私だってときには「さみしい」と感じることもあるわよ。人間誰しもそうよ。今は、さみしいと思うことはそんなにないけど、若いときは雨の日に1人で歩いていると、不安やさみしさが急に襲ってきた。
花塚:そんなとき、どうやって不安やさみしさと向き合うんですか?
松原:そんなときは、とにかく泣きながら夜道を歩き続ける。雨も涙もわからないくらいにね。思い切り「さみしい」と感じて、受け入れることが大切だと思います。そうすれば、いつの間にかいい方向に向かっていくこともあるのよ。
夜道を歩くこと、好きな時間にカフェに行くこと、スーパーに行って好きな食材を買うこと、電車に乗ること。最近はすべての日常が、輝いて見えるようになった。
歳を重ねるごとに、1人はいいなぁって思えるから、年齢を理由に妥協しないでがんばれる。孤独ととことん向き合うのも大事だけど、深刻に考え過ぎないことも大切ね。むずかしいけど、やりたい目標に向かっていれば、絶対に光が差してくる。だから、あなたもがんばってね。
「孤独だな」「さみしいな」と感じている方や、この記事を読んで考え方が変わった方は、ぜひコメント欄で教えてください。
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松原惇子
ノンフィクション作家。昭和女子大学卒。『女が家を買うとき』(現在・文春文庫)で作家デビュー後、一貫して「ひとりの生き方」をテーマに、執筆活動、講演活動を行っている。1998年、おひとりさまの「終活」を応援する団体、NPO法人SSS(スリーエス)ネットワークを立ち上げる。著書に『ひとりの老後はこわくない』(海竜社)、『老後はひとりがいちばん』(海竜社)、『孤独こそ最高の老後』(SB新書)など多数。
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