100歳まで生きたら老後資金はいくら必要?
65歳夫婦に必要な額は「1970万円」!
取材・文:花塚水結
厚生労働省の「簡易生命表(2019年)」によると、日本人の平均寿命は、男性が81.41年、女性が87.45年で、この数字は年々伸びています。また、95歳まで生きる人の割合は、男性が10.1%、女性が26.7%です。
女性の4人に1人が100歳近くまで生きている現代、「100歳までのマネープラン」はひとごとではありません。
もっとも、長生きはとてもよいことですが、一方で資金面や健康面でのリスクも高まります。そのリスクに備えておくための手段として、100歳まで生きたときに必要な老後資金の試算を出しておきましょう。
今回は、マネージャーナリストの有山典子さんに、100歳までに必要なお金の試算を出していただきました。
記事内で使用する「100歳までの老後資金計算シート」は、下のリンクからダウンロードできるので、みなさんも一緒に試算してみましょう!
▼100歳までの老後資金計算シート PDF版
▼100歳までの老後資金計算シート エクセル版
今の生活費は? 収支を知って100歳までの老後資金を試算する
花塚:長生きは楽しみもある一方、お金や病気の心配がつきないですよね。そこで、老後資金の計算をしてみたいなと思ったのですが、計算方法を教えてください!
有山:老後資金の試算方法ですね。わかりました。
花塚:100歳までの老後資金を計算するには、どのように計算すればいいのでしょうか?
有山:簡単にいうと、「年間収支の差額」×「100歳までの年数」で計算します。まずは、試算に必要な収支を洗い出してみましょう。
試算に必要な収支とは、下記の4つになります。
有山:①毎月の生活費は、食費や光熱費など、毎月かかるお金のことです。普段いくら使っているのか? ということは、現状を把握する意味でも知っておいたほうがいいと思います。
②毎年必要なお金は、固定資産税や年払いの保険料など、毎月ではないけど、年単位で支払いがあるもののことです。
冠婚葬祭などの費用も入れておくといいですね。
③生活費以外に使うお金とは、住宅修繕費・リフォーム費用、旅行費用など、老後の暮らしで使いたい、まとまったお金のことです。
万が一、施設への入居が必要になったときのことも考えて、老人ホームの入居費なども③に入れておくといいのではないでしょうか。
花塚:どんなことに使うか、よく考えないといけませんね。
有山:そうですね。まずは、想定される費用を思いつくまま書き出してみるといいですね。
④は年金額です。夫婦の場合は、夫婦の合計額を書きましょう。また、配当などで先々もほぼ確実に得られる収入がある場合は、その収入も合計しましょう。
花塚:将来の年金額は、どのように調べたらいいのでしょうか?
有山:「ねんきん定期便」を見るといいです。これは毎年誕生月に送られてくる書類ですが、これまで支払っている年金保険料などが記載されています。
50歳以上の方であれば、もらえる年金の見込み額も記載されているので、確認しましょう。
花塚:そういえば、先月の誕生月にねんきん定期便が送られてきました! この書類を確認しておけばいいのですね。
有山:はい。では、試算をしていきましょうか。
今回は、総務省の「家計調査(2019年)」の数字をあてはめて、考えられるケースごとに65歳時点の必要な資金額を試算してみましょう!
花塚:お願いします!
年金をもらう前の60代夫婦の老後資金
有山:まず、年金をもらう前の60歳夫婦のケースですね。
想定する状況としては、サラリーマン家庭であること、妻はパート、または専業主婦であること、子どもは独立していること。また、持ち家でローンは完済しているとします。なお、年金は65歳から受け取るのが前提です。
有山:このケースでは、①毎月の生活費を24.5万円、②毎年必要なお金を30万円(月あたり2.5万円)としています。月あたりの生活費は合わせて27万円です。
家計調査のデータによると、高齢者夫婦の1カ月の生活費は約27万円なので、これと同額にしました。
次に③生活費以外に使うお金ですね。こちらは、記念旅行の費用や住宅修繕費などで500万円と設定しました。ただ、将来の介護費用などを考えれば、やや少なめかもしれません。
最後に④年金額ですが、こちらも家計調査にもとづいています。データによれば、年金収入として夫婦合わせて21.7万円、それ以外の収入が1.8万円で、合わせて月23.5万円程度です。
花塚:ここまで記入できたら、次は計算していくのですね。
有山:はい、1段階ずつ計算していきましょう。
まずはステップ1です。「①毎月の生活費×12カ月+②毎年必要なお金」で、毎年の生活費を計算していきます。
花塚:①毎月のお金は、「×12カ月」で、1年分の生活費にしているのですね。
有山:そのとおりです。
続いてステップ2です。毎年の生活費に対して、年収がどれだけ不足するのかを考えます。もちろん、年収のなかでやりくりできるといいのですが……。
家計調査のデータでは、毎月約4万円の生活費が不足することになっています。年金だけでは生活できないことが多いので、毎年の生活費から年収を差し引いて、毎年どれだけ不足するのかを把握しましょう。
続いてステップ3です。ステップ2で出した「毎年の不足分」に100歳までの年数をかけて、100歳までの不足額を計算します。
このケースの場合、まだ年金をもらう前の夫婦なので、年金を受給する65歳から100歳の35年間で計算しています。
すでに年金を受給している方は、現在の年齢から、100歳までの年数をかけましょう。
最後にステップ4です。「100歳までに不足するお金+生活費以外で使うお金」の合計が、65歳時点で必要な老後資金になるというわけです。
このケースだと、100歳までに1970万円が必要だということになります。
花塚:なるほど。「老後2000万円問題」に近い数字になりますね。
有山:そうですね。ただ、これだけ必要なことをあらかじめ知っておけば、対策ができますよね。もし持っている老後資金が足りないなら、65歳までは継続雇用やパートなどで働き、老後資金には手をつけず、できれば預金を増やしておく。退職金があるなら、使ってしまうのではなく、きちんと貯めておく。また、節約生活に慣れておくことも有効ですね。余裕があるなら、年金を繰下げ受給にして老後の収入を増やすのも選択肢の1つです。もし年金受給を繰り下げて70歳から受け取ることにすれば、年金額は42%も増えます。
こうした見通しを立てておくことがとても大事だと思います。
年金暮らしの70代夫婦の老後資金
有山:次に、すでに年金を受給している70歳夫婦のケースで試算してみましょう。
先ほどの60歳夫婦と基本的に同じ状況を想定します。異なる点は100歳までの期間が30年になることと、生活費以外に使うお金を450万円としていることですね。試算は以下のようになります。
有山:70歳夫婦の場合、このケースでは100歳までに1710万円が必要になります。
花塚:足りない場合は、どのようにすればいいのでしょうか?
有山:70代だと資金を増やすのはむずかしいですよね……。すでに年金を受給していると繰下げ受給ができないので、収入を増やすには、週1~2回でも仕事を続けていくのが一番いい方法でしょう。
今ある資金の使い方を計画的にし、節約して生活費を抑えるといいと思います。
60歳お一人様女性の老後資金
有山:60歳独身女性の場合を考えてみましょう。
生活費については、家計調査による65歳以上独身女性のデータにもとづいています。設定は、会社員としてずっと働いていて、厚生年金に加入していることを想定します。
有山:60代独身女性のケースでは、100歳までに1236万円が必要だということになります。
花塚:足りない場合は、どのようにすればいいでしょうか?
有山:健康に気をつけて、継続雇用などで、できるだけ長く働くのが一番有効だと思います。また、まだ年金をもらっていない場合は、繰下げ受給で年金収入を増やすこともできます。
このほか、この年代では親から財産を相続することも考えられるので、家族で十分に話し合っておくといいでしょう。
100歳まで生きたときのリスクヘッジとして試算する
花塚:上記のように、試算することでメリットはあるのでしょうか?
有山:100歳まで生きたときのリスクヘッジ、また、試算することで現状把握できる点が最大のメリットだと思います。今では、100歳まで生きることは珍しくありません。早い時期から老後資金がどれだけ必要かを知っておけば、対策の幅が広がります。
加えて、現状把握ができれば、普段の生活に見直せる点が見つかるかもしれません。毎月
1万円の節約でも、35年間にしたら420万円にもなりますからね。
また、試算した結果、老後資金に十分な余裕があるとわかれば、気持ちよく、そして楽しく、お金を使うといいと思いますよ。万が一のときのことを考えると、お金を使うのが怖いという人も多いのですが、死んでしまえばお金は使えません。
「余裕がある」とわかったうえでなら、贅沢する人生もいいのではないでしょうか。
ただ、対策をするにも、お金を使うにも、まずは自分の試算を出すことが重要になります。上記で出した例は、あくまで例にすぎません。計算方法はシンプルですので、ぜひ、みなさんも試算してみてほしいと思います。
▼100歳までの老後資金計算シート PDF版
▼100歳までの老後資金計算シート エクセル版
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有山典子
編集者。マネージャーナリスト。野村総合研究所勤務後、『マネープラス』創刊編集長、『マネージャパン』編集長を経て、独立。著書に『老後のお金 備えの正解』(朝日新聞出版)など。
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