今、読みたい! 山本文緒『落花流水』
流れる水のような人生に、あなたは何を思いますか?
文:出口夢々
編集部・出口が、ZIEL読者のみなさんに今、読んでいただきたい本を紹介する連載「ZIEL編集部が選ぶ 今、読みたい本」。毎月の特集テーマと関連のある内容の本を選び、紹介していきます。
第6回目に紹介するのは、2015年1月24日に発売された山本文緒の『落花流水』。2月の特集テーマ「冬に感じたい、甘い日々」に関連して、自分だけの家族や愛を求めてさすらう女性を描いた作品を紹介します。
「ここではないどこか」を求めた60年
ある日突然、お母さんを失った主人公の手毬。小学生の手毬は帰宅すると、家のなかでお母さんが倒れているのを発見します。救急車で搬送されたお母さんは、そのまま息を引き取り、帰らぬ人に。その事実に手毬は悲しみ涙を流しましたが、さらに手毬を驚かされる事実を知ります。それまで手毬がお母さんだと思っていた女性は、実は、手毬の祖母にあたる人物だったのです。
手毬の母は、それまで手毬が「お姉ちゃん」と呼んでいた女性・律子でした。律子は17歳で手毬を妊娠し、出産。相手の男性に経済力がなかったことや、愛情を持って手毬を育てていく自信がなかったことから、祖母に手毬の面倒を見てもらっていたのです。“お母さん” が亡くなった悲しみと、“お母さん” は本当のお母さんではなく、“お姉ちゃん” がお母さんだったという事実は、幼い手毬を容赦なく傷つけたのでした。
心に傷を負った手毬はどのように成長し、自分の家族をつくっていくのか——。人を愛し、愛されることはできるのか——。60年にわたる手毬の人生を描いた作品です。
流れる水のような手毬の人生
祖母の死による離縁、母の再婚、手毬自身の結婚や再婚により、6回も変わった手毬の苗字。その流れるような変遷は「ここではないどこか」を求めて彷徨う、手毬の心の動きそのものです。まだ見ぬ自分の居場所を求めてさすらうのは、苦しいことのような気がしますが、社会の規範やしがらみとは無縁のところで生きる手毬の人生には、さらさらと流れる水のような美しさがありました。
「落花流水」とは、散る花と流れる水のこと。また、男に女を慕う心があれば、女もまた情が生じて男を受け入れるということ。流れる水のような手毬と、散る花——男たちがつむぐ “愛” に何を思うか。
みなさんの感想を聞いてみたい1冊です。読んだらぜひ、感想をコメント欄で教えてください!
- 書籍情報
- 山本文緒『落花流水』(KADOKAWA/角川文庫)
定価:480円(+税)
発売日:2015年1月24日
ISBN:9784041019566
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