今、読みたい! 垣谷美雨『希望病棟』
希望を阻む壁に立ち向かう、感動ストーリー
文:出口夢々
編集部・出口が新刊本を紹介する新連載「ZIEL編集部が選ぶ 今、読みたい本」が始まりました! その月に発売された本のなかから、毎月の特集テーマと関連のある内容のものを選び、紹介していきます。
記念すべき第1回目に紹介するのは、2020年11月6日に発売された垣谷美雨の『希望病棟』。11月の特集テーマ「『みんな』と『わたし』」に関連して、死期が迫った末期癌患者が考える「理想のわたし」の姿や、「みんな」のあり方を考えられる1冊です。
「みんな」との折り合いをつけるのがむずかしい登場人物たち
神田川病院に赴任してきた女医・黒田摩周湖は、ある日病院の中庭でおかしな聴診器を拾います。その聴診器は、患者の胸にあてるとその人の心の声が聞こえてくるというもの。幼いころから周囲の人とコミュニケーションをとるのが苦手な摩周湖が聴診器の不思議な力に助けられながら、患者の抱える悩みを解決しようと奔走する物語です。
そんな摩周湖が担当することになったのが、末期癌を患った患者2人——児童養護施設で大人を信じられずに育った高校生の小林桜子と、代議士の妻で常に夫に従順な谷村貴子。新薬の治験を受けた2人は見事回復し、「もう助かる見込みはない」と言われていたときに考えていた「どうせ死んでしまうなら、やっておきたかったこと」を実現させようと動き出します。
勉強が得意な桜子は「高校を卒業したら大学に通いたい」と思いますが、児童養護施設で暮らしているため進学するためのお金も、そもそも施設を出た後に1人暮らしをするためのお金もありません。そんな桜子は、自身の貧困問題を解決すべく性風俗で働き出そうか悩みます。
代議士の妻である貴子は、選挙で勝つことにしか興味がなく、実際の政治には何の興味も関心もない「クズ男」の夫に嫌気がさします。そんな家族にしたがうのではなく、自分の道を歩もうとするも、「代議士の妻」として世間から求められる姿と自分のやりたいこと——性風俗店の開業——を叶えたい気持ちの狭間に立たされるのでした。
桜子と貴子は自分自身を取り巻く社会的な問題を乗り越えられるのか、摩周湖はコミュニケーションをうまくとり、2人の力になることができるのか——。希望を阻む壁に立ち向かう登場人物たちの姿に勇気をもらえる1冊です。
貧困や無戸籍、児童虐待など、「みんな」の抱える問題を解決するために、奔走する貴子。夫や姑に求められる代議士の妻のあり方に疑問を抱きながら「わたし」を押し殺していた彼女が、がんを克服して行動的になっていく様子に、「私も自分にできることを精一杯がんばりたい」と思いました。登場人物たちが「みんな」と「わたし」の狭間を埋めようと努力する姿に注目です。
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- 書籍情報
- タイトル:希望病棟
著:垣谷美雨
出版社:小学館
定価:690円(+税)
発売日:2020年11月6日
ISBN:9784094068368
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