段取り命のサラリーマン、人生の最期の一大終活プロジェクト——『エンディングノート』
実の娘が描くドキュメンタリー映画
編集部・花塚が今観たい映画作品を紹介する連載「気になるシーンをコマ送り スクリーンZIEL」。第8回目は、2011年に公開された『エンディングノート』。
熱血営業マンとして高度経済成長期に会社を支えたサラリーマン・砂田知昭。40年以上も勤めた会社を退職し、第二の人生を歩もうとした矢先、ステージ4のガン宣告を受けます。
人生最後のプロジェクトとして立ち上げたのは「自らの死の段取り」と「エンディングノートの作成」。それを実行していく姿を実の娘である監督・砂⽥⿇美が記録した、ドキュメンタリー映画です。
2021年5月15日(土)よりNetflixで配信が開始となったので、さっそく花塚が鑑賞しました!
わたくし、終活に⼤忙し。
2009年、東京。熱⾎営業マンとして⾼度経済成⻑期に会社を⽀えたサラリーマン・砂田知昭は40年以上も勤めた会社を67歳で退職します。何事も「段取りが命」。サラリーマン時代に培ったそのスキルは、タクシーに乗れば細かく道を指示するほど染みついて、そう簡単には抜けません。
全力で駆け抜けてきたサラリーマン人生のなかで、結婚し、3人の子どもにも恵まれましたが、「会社、命」と言うシーンがあるように、仕事一筋の生活をしてきたのだろうと伺えます。
退職後は、それなりにゆっくりする時間がとれて、喧嘩することも多かった「奥さん」とも、穏やかな時間をともに過ごせるようになってきたその⽮先、毎年受けていた健康診断で胃ガンが発覚。すでにステージ4まで進んでいたのです。
そんな知昭さんは、残される家族のため、そして⼈⽣の総括のために、「⾃らの死の段取り」していきます。エンディングノートに希望をつらつらと書き、式場の下見をし、神父さんに会いに行く——。その姿は、とてもガンを患っているようには見えないほど、テキパキと段取りを進めていきます。
10番目のやることリスト「妻に(初めて)愛していると言う」
自身の集大成でもある「⾃らの死の段取り」を1つずつ実行していく一方、着実に病魔が知昭さんの身体を蝕んでいく様子がカメラに収められています。
検査入院の結果、肝臓までもが病魔に侵され、医師からの余命宣告は短くなってしまいます。涙ながらに夫の余命を電話で誰かに伝える奥さんの後ろ姿は、とても心苦しかったです。
その数日後に入院、病院で家族と最後の時間を過ごします。起き上がることも、声を出すことも困難な状態で、奥さんと2人で話すシーンは涙なしには観れませんでした。
死を悲しんでくれる人がいるということ
知昭さんが亡くなる数日前、アメリカに住む長男とその家族が緊急帰国し、病室へ駆けつけます。お孫さんは3人。まだ(推定)5歳、3歳、生後3カ月。そのなかで(おそらく)5歳の孫・恵茉ちゃんは、「おじいちゃんが死んじゃう」ことを子どもながらに察しているのか、元気のないおじいちゃんの横で泣いてしまうシーンが印象的でした。
泣く恵茉ちゃんの姿に大人たちも涙を隠しきれず、知昭さんに迫る「死」を悲しみ、知昭さんもまた、涙を流します。
そんな “家族のあたたかさ” に私も涙を堪えきれませんでした。人生の最期に死を悲しんでくれる人がいるのは、その人が生きてきた証でもあると思います。「会社、命」という言葉の裏にはきっと、「家族のため」にが隠されていたと思いますし、そんな知昭さんのことを家族も尊敬し、愛していたはずです。
つい忘れがちになってしまう “家族のあたたかさ” を思い出させてくれる、そんな映画『エンディングノート』。この機会に鑑賞してみてはいかがでしょうか。
『エンディングノート』(2011年)
撮影・編集・監督:砂⽥⿇美
製作・プロデューサー:是枝裕和
カラー/確 92 分/(本編90分+特典2分)/ドルビーデジタル(ステレオ)/⽚⾯2層/16:9(スクイーズ)/ビスタサイズ/英語
字幕付(ON・OFF可能)/聴覚障害者対応⽇本語字幕付(ON・OFF可能)/視覚障害者対応副⾳声付
©2011「エンディングノート」製作委員会DVD発売中
発売・販売元:バンダイナムコアーツ配信しているサイト:Netflixなど
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