歳をとることは、死へ向かっていくことなの?
身体を若々しく保つ生活習慣
取材・文:出口夢々
写真:黒澤義教
人は生まれた瞬間に死という現象へ向かっていく――。そのように考えると、歳を重ねる、すなわち老いることは死へ向かっていくことのように捉えられます。そこで本当に老いとは死へ向かうことなのか、そもそも老化とはどのような現象なのかを、東北大学加齢医学研究所の教授である瀧靖之先生に伺いました。
老化とは機能が衰退すること
出口:人生を時間軸に沿って見ると、誕生から発達、成熟、老化、そして死を迎えるわけですが、そもそも「老化」とはどのような現象なのでしょうか?
瀧:「老化」とは、人間に備わっている機能が衰退していくことです。
体内で慢性的に炎症が起きるようになり、それによって動脈硬化や認知症などの症状が誘発されるようになったり、免疫力が落ちたりします。これが老化の原因とも言われています。生まれてから得てきた機能を失っていくイメージですね。加えて、体内には「活性酸素」と呼ばれる、物質を積極的に酸化させて悪い物質にしようとする酸素があるのですが、歳を重ねると、この活性酸素を無毒化させる機能が衰えるんです。その結果、身体がサビつき、老化につながります。
瀧:そして、身体の機能が衰退した結果、生体を維持できなくなるのが「死」という現象です。
出口:歳を重ねるにつれて、身体がサビついたり、慢性炎症が起こるようになったりするとなると、老化とは、健康だった身体が不健康になっていく現象のようにも捉えられます。
瀧:そうですね。老いは避けられないと考えるのが一般ですが、そうではなくて、実際に、「老い=病気」と考えている研究者もいるんですよ。
出口:では、病気を予防する、つまり老化を阻止できたら死も阻止できるのでしょうか?
瀧:理論上は可能かもしれないですし、そのような研究もされ始めていますが、現実的に現時点でそれは不可能で、今の科学ではどうしても死は避けられないものです。
出口:死は避けられない、絶対的な現象なのですね。
生活習慣の改善で老化を阻止できる
瀧:先ほど出口さんは、「人生を時間軸で見ると、誕生から発達、成熟、老化、そして死を迎える」と言っていましたが、身体の機能を衰退させずに死の直前まで発達することは可能なんですよ。先ほどは山型の人生をイメージしましたが、機能を維持したり、さらに獲得していくイメージです。
出口:歳を重ねることと比例して老化が進むかどうかは、人によって異なるのですね。
瀧:そうですね。最後に「死」が存在するのには変わりありませんが、そこまでの向かい方が異なると人生は大きく変わりますよね。現在、自立した生活を送れる時間を表す「健康寿命」と「平均寿命」には約10年のかい離があります。つまり、病気になったり介護が必要になって日常生活が制限される時間が10年ほどあるわけです。ですが、老化を防ぐ、すなわち健康寿命を延ばせば、死を迎える直前まで日常生活を送れるようになります。
出口:どうすれば健康寿命を延ばせるんですか!?
瀧:特別なことは必要ありません。適度な運動をしたりカロリー控えめの食事を摂ったり、しっかり眠ったり。日々の生活で少しずつ意識することで、健康寿命は延ばせるんですよ。
瀧:たとえば食事ですが、魚介類や野菜を中心とした内容にするといいです。また、糖質を摂取すると血糖値が上がるのですが、食べる順番を意識してその上昇の仕方をなだらかにしてあげると、糖尿病のリスクを下げて、より健康体を維持できます。
出口:食事の仕方を変えるだけで身体が変わるんですね。
瀧:空腹の状態で糖質の高いものを食べると、血糖値は急上昇します。そうすると、下がり方も急な下り坂になるんです。そして、身体は血糖値が下がるときに疲労感を覚えるので、その角度が急であればあるほど疲労感が増します。
瀧:一方、空腹の状態で野菜や汁物など糖質の低いものを最初に食べると、血糖値の上昇がゆるやかになります。すると、自ずと下降の仕方もゆるやかになる。血糖値の振幅が小さくなるので、疲れにくくなるんです。それだけでなく、糖尿病のリスクも下げられます。
出口:よい食事のとり方を心がけることが、健康寿命を延ばす秘訣なんですね。
ワクワクすると認知症になるリスクを小さくできる
瀧:また、好きなことに積極的に取り組んだり、ボランティアなどの社会参画を通して人とコミュニケーションをとる機会を増やすことも、健康寿命を延ばす秘訣です。
出口:好きなことをするだけで健康寿命が延ばせるんですか?
瀧:好きなことをするときって、ワクワクしますよね。そうしたポジティブな感情が高まると、脳内では快感伝達物質であるドーパミンが放出され、脳の働きが活発になるんです。
また、知的好奇心のレベルが高まると、脳の「側頭頭頂部」にもいい影響を与えます。側頭頭頂部とは、情報の記憶や操作を行うワーキングメモリや、高次認知機能を担当する部分です。一般的に、歳を重ねると萎縮が進む場所ではあるのですが、好奇心が高いと、この萎縮を抑えられる。つまり、認知症になるリスクを下げられるんです。
出口:ワクワクすることで認知症になる可能性が低くなれば、健康寿命が延びる可能性が高くなるわけですね。
瀧:さらに、脳には「可塑性」という、経験を繰り返すたびに成長する特徴もあります。なので、楽しく楽器演奏や何かを学ぶなどの趣味活動をしたり、あるいはいろいろな方々と会話をするなどして可塑性をうまく機能させることで、脳の老化を抑えられます。
出口:肉体的なところだけでなく、感情などの内面を豊かにすることも大切ですね。
瀧:私たちが最終的に死を迎えるのは確実です。ですが、死の迎え方は自分の意識次第で変えられます。赤ちゃんだったころは言葉も話せず、まわりの人たちの助けによって生活していましたが、歳を重ねた今では、人と会話し、自立した生活を送るだけでなく、さまざまな経験をしてきましたよね。
身体の機能だけに焦点をあてると、歳を重ねることで失っていくものもありますが、人生の経験値はずっと上昇していきます。さらに、健康寿命を延ばそうと生活習慣を変えることで、身体の機能も上昇させられます。どれだけ歳を重ねても、身体も脳も行動を変えたその日から変化します。より幸せな人生を送るためにも、生活習慣を見直してみてはいかがでしょうか?
みなさんが生活習慣で気をつけていることや実践していることを、コメント欄で教えてください!
この記事に協力してくれた人special thanks
-
瀧 靖之
東北大学加齢医学研究所・教授。医師。医学博士。東北大学加齢医学研究所及び東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターで、脳の発達や加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍。著書に『16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える「賢い子」に育てる究極のコツ』(文響社)、『生涯健康脳になるコツを教えます!』(廣済堂健康人新書)など多数。
まだデータがありません。