400軒超の家を片付けてきた戸田さんの「⽣前整理収納法」
捨てなくてもいい!
取材・文:花塚水結
1年の締めくくりといえば大掃除。ものが多いから捨てよう! と思っていても、なんだかものが捨てられず、うまく片づけができない方はいらっしゃいませんか?
今年は新型コロナウイルスの影響で、思いどおりに行動することがむずかしい1年でしたが、そんな年の大掃除だからこそ、自分が思い描く「綺麗な部屋」にするため、すっきり片づけてしまいましょう!
整理収納の方法を、株式会社スペースRの代表取締役・戸田里江さんに伺いました。
ものを「見える化」すれば「捨てたい」と思える
花塚:私、ものを捨てられないタイプなんですけど、年末の大掃除前にものを捨てられるようになりたくて……!
戸田:依頼者の方のなかにも、「ものが捨てられなくて困っている」という方が多くいらっしゃるのですが、「捨てられない」のではなくて、「捨てたくない」んだと思いますよ。ですから、無理に手放さなくてもいいと思います。
花塚:え……捨てなくていい?
戸田:花塚さんは、部屋にあるもののすべてを出したことがありますか?
花塚:いえ、ないです。
戸田:「捨てられない」という人は、みなさん出したことがないと言うんです。
みなさんそうなのですが、普段クローゼットや納戸にしまっているものをすべて出して、「見える化」すると自然と「捨てたい」という気持ちになると思います。
花塚:全部出すと片づけが大変になりますよね……。
戸田:そうなんです。みなさん、そう思っているから自分ではものを出せないんですよね。ものを出した後、綺麗に片づけることは途方もない作業だとわかっているんです。
多くの高齢者が現在住んでいる昔ながらの戸建ての家で、不要なものを段ボールに詰めたとき、どれくらいの段ボールが出ると思いますか? ちなみに、昔の家は部屋数が多くて、2階建てで部屋は5つくらいあります。
花塚:部屋が多いんですね。1部屋5箱だとしても、25箱くらいですか?
戸田:平均で段ボール150〜200箱くらいあるんです。特にものが多い人だと、300箱にもなることがあります。
広い家に住んでいても、実際に使う部屋はリビングと寝室くらいですよね。ものはすべて使っていない子ども部屋や納戸に収納できちゃいます。自分の生活スペースがあれば、ものを捨てなくても困ることはありませんから、みなさん「捨てれらない」というんですね。
花塚:使っていないものがクローゼットに詰まっていることは、わかっているんですよね……。
でも、なぜものをすべて出すと「捨てたい」と思うようになるのでしょうか?
戸田:家具のなかにしまっておいたものを改めて床に出して眺めると、あまりの多さに唖然とし、気分が悪くなりって捨てたくなるからです。「こんなものまで持っていた!」とびっくりして即座に捨てたくなると思いますよ(笑)。
ご依頼いただいく方々も、電話口では「ものが捨てられなくて困っているの」と言っていても、実際に自宅へお邪魔してものを全部出し始めると、「全部要らないわ」と言ってものを手放す方が非常に多いですね。
花塚:ということは、依頼者の自宅でものを全部出す作業を行うのですか?
戸田:そうです。そして、状況に応じてですが、1つずつ要るのか要らないのかをお客様に判断してもらいます。ですから、「出てきたものはすべて処分しましょう!」というのではなく、お客様が「捨てたくない」ものは全部取っておきますよ。
花塚:片づけに行っているのに、1つずつ確認してもらうのはとても大変な作業ではないですか?
戸田:もちろん大変です。でも、ものの要る・要らないは、その人の「生き方」なんです。
花塚さんも、どうしても捨てられないものってありませんか?
花塚:アイドルが好きで、買い集めたグッズは捨てられないですね。
戸田:それでいいんです。本人が大切にしているものを「捨てましょう」と言っても、本人の気持ちを踏みにじってしまうだけですから。なので、私たちはその人の「生き方」に従ってものを仕分けしています。
整理収納で時間、経済、精神のゆとりがもてる
花塚:ものを整理するメリットとは何ですか?
戸田:ものを整理すると3つの効果が得られると思っていて、時間、経済、精神のゆとりにつながります。
花塚:時間のゆとりとはなんでしょうか?
戸田:ものを探す時間がなくなります。どこに何があるのか把握できれば、ものを探して焦ることはありません。たとえば、キッチンの整理をすると、料理の時間がグッと短縮できます。食品、調味料、調理器具のすべてがすぐに取り出せるようになり、無駄な時間が減るからです。
こうした、決まった位置にものを置くことを「定位置管理」と言います。もの1つずつに定位置が指定されると、使ったらその場所に戻せば片づくので、探す必要がなくなります。結果、家事時間が短縮されるので、人生の生産性が上がります。
花塚:ものに定位置がないから使いっぱなしにしてしまうのですね。
経済のゆとりとはどんなことですか?
戸田:無駄買いを防ぐことができます。無駄買いしてしまいがちなのは、頻繁に使用しない電池や電球など。これらを収納しておく定位置を決めずにバラバラに置いておくと、家にあることを忘れて必要になったときに新しいものを買ってしまうんです。でも、定位置を決めておけば、必要なときにその場所を見ればいいだけですから、無駄に買うことを防げます。
それから、食品なども無駄買いが多く見られます。以前に片づけに行った高齢者の家からは、封の開いた油が3本も出てきたことがありました。食品のストックは、封の開いているものと、新品のものに分けて収納するとわかりやすいと思います。
花塚:すでに開けているものと、新品だけなら自分でも片づけられそうです!
花塚:精神のゆとりとは何でしょうか?
戸田:負の感情がなくなります。ものには、人の気持ちが詰まっているんですよ。
千羽鶴ってありますよね。「昔、病気をしたときにみんなが折ってくれたから」という理由で捨てられない人が少なくありません。相手の好意を「持っていること」で受け止めているから、もらったものを捨てることは罪深いことだと感じる人が多いんです。
でも病気になったのは過去の話。「そのときに千羽鶴を大事にしていて、病気が完治したなら、もう十分だよ」と言うと、安心して手放してくれます。
花塚:ものを捨てることに不安を感じる人は多いのですか?
戸田:はい。捨てたら悪いことや困ることが起こると思っている方が多いように思います。
保険会社から毎月送られてくる報告書や冊子を何十年分もとっておく人もいらっしゃいますが、スペースを取っているだけで、過去のものは読まないですよね?「最新のものだけ持っていれば、昔のは捨てて大丈夫だよ」と言うと、「あっ、そうなんだ!」と言って、どんどん捨てられるようになります。
私はそれを「大丈夫療法」と言っていて、安心してものを手放してもらっています。ですから、負の感情もなくなるというわけです。
その代わり、「思い入れがあるものは捨てないで」と言っています。努力して取った資格の証明書などは自分の誇りでもありますから、「取っておいてもいいんじゃないですか」とアドバイスをしていますね。
また、家のなかがスッキリすると一緒に住む家族の気分がよくなり、人間関係も良好になることがあります。以前、「片づけをしたら夫婦げんかもなくなった」と聞いたことがあります。
花塚:自分の精神だけではなく、まわりの人の心も豊かになるのかもしれませんね。
整理は面倒だなと思いがちですが、乗り越えるといいことばかりですね。
戸田:本当にそう思います。
それから、病気が治る過程で好転反応が出ることがありますよね。片づけも一緒で、一旦すべてものを捨てると、不思議と家電が壊れたり、引き出しの取っ手が取れたりすることがあるんです。
そうした片づけ中の好転反応に負けないで、根気強くものを捨てることを続けていくことで、運気も上がっていきますよ。
ものの役割別に「アイテムごと収納」を行う
花塚:ものを「捨てたくない人」の整理収納方法はありますか?
戸田:ものを捨てないのはいいのですが、分け方がポイントになります。
花塚:分け方のポイントはなんでしょうか?
戸田:「アイテムごと収納」をしっかりすることです。アイテムごと収納とは、種類別にものを分類することですが、これができていないと定位置管理もできません。
以前、食器棚に離乳食のお皿が置いてあった高齢者の女性がいたのですが、それは、自分の子どもが赤ちゃんのときに使用していたものだったんです。それはもう60年近く前のものですから、「思い出」ですよね。だから、食器棚ではなく「思い出BOX」にしまいます。
花塚:なるほど……! 食器という同じアイテムでも、今使っているものと、思い出の品ではグループが異なるのですね。
戸田:そういうことです。思い出も、息子の思い出、母親の思い出と1つずつ分けます。視覚的にも綺麗になってわかりやすくなるので、どこに何があるか一目でわかります。
花塚:自分で整理収納を行う際は、どのように行えばいいですか?
戸田:家具やスペースごとにやるといいと思います。限られたスペースにしかものを置くことができないので、1つの家具やスペースを空にすると、どれだけのものが入るのかわかりますよね。
また、どんな部類のものが多いのかがわかるようになるので、文房具は2段分使おうとか、書類は1段分で足りそうだとか、使用するスペースの計画が立てやすくなります。
また、仕分けを始めるならカトラリーの整理から始めるといいです。使っているものをピックアップして、後は思い出BOXなり不用品に移動させればいいので。食事は毎日するものですから、カトラリーは毎日使っているはずです。使っているもののピックアップさえできればいいので、10〜15分程度で終わると思いますよ。
後は、身の丈を知ることも大切だと思います。よく、地震がきたときに備えて相当な量の食品をストックされている人がいるのですが、ストックばかりが増えて、気づかぬうちに賞味期限が切れてしまっていることが多いんです。
万が一のときの備えは避難グッズとして持っておいて、普段食べる食品ストックは、消費できる量に抑えましょう。
花塚:まずは全部出してみる。今年の大掃除は、いつもより大掛かりになりそうです……!
これから大掃除の季節になりますが、みなさんが整理収納をしたいと思っている部屋やスペースはありますか? コメント欄で教えてください。
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この記事に協力してくれた人special thanks
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戸田里江
株式会社スペースR代表取締役。2008年、ミサワリフォーム(株)で毎⽉600軒のリフォーム営業を担当。多くのご家庭で⽚付けが課題であることを実感し、社内で整理収納の重要性を提案し社内講師となる。2011年、整理収納コンサルタント会社「RAKUYA」として独⽴起業。「捨てなければ⽚付かない」とあきらめているシニア層へ、無理なくモノを⼿放せる独⾃メソッドを導⼊した「⽣前整理収納法」を提供。現在まで、400軒以上の住まいを⽚づけている。2017年より、⾼齢者施設への⼊居に関わる⽣前整理・引越し・収納等のサポートを開始。またご家族同居の際の荷物の⽚付けから、新居の収納、リフォームまであらゆるお悩みを解決できる独⾃のワンストップサービスで好評を得ている。
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